2018年3月3日 (第3231回)

個人、家族、地域における「一貫性の感覚」の重要性 健康生成論をベースに被災地の復興の人生径路を考えてみる

立命館大学総合心理学部 教授 サトウ タツヤ

 病気になるメカニズムを知ることで、その原因に対処するのが一般的な医療の考え方であり、それは多くの成果をあげてきました。しかし、アントノフスキーは健康生成論という考え方を打ち出し、健康がどのように維持されるのかを考えれば、病気になりにくいメカニズム=病気の予防が可能になるのではないかと考えました。

 彼が注目したのは、個人の「一貫性の感覚」です。自分が自分として一貫しているという感覚を持つことができる人は、極限的に健康状態悪化が見込まれる時でも、健康が悪化しないというのです。このことは、自らがナチス・ドイツの強制絶滅収容所に収容されそこから生還した経験を持っているフランクルの著書『夜と霧』とも一致するかもしれません。

 そしてアントノフスキーの健康生成論の考え方は個人を超えて家族における「一貫性の感覚」が重要だという考え方も引き出しました。もしそうだとすれば、この考え方を拡張すれば地域における「一貫性の感覚」も大事だということになるでしょう。

 大災害は家族や地域の一貫性の感覚が脅かされる出来事です。2011年におきた東日本大震災は東京電力福島第一原子力発電所の事故を引き起こし、福島の方々に大きな影響を及ぼしました。そうした中、地域の一貫性の感覚を維持すべく努力して今日の復興を担っている方々の生き様についてTEA(複線径路等至性アプローチ)を用いて紹介すると共に、私たちが日常において、個人、家族、地域の一貫性の感覚を持つことの意義を考えてみたいと思います。