2018年11月24日 (第3259回)
私たちが孤児になるとき ―カズオ・イシグロ論
慶應義塾大学法学部 教授 佐藤 元状
カズオ・イシグロの小説を読んでいて気になるのは、「孤児」のモチーフです。日本を舞台にした初期の小説から実はその萌芽が見られるのですが、中期の『日の名残り』や『充たされざるもの』で次第に顕在化し、『わたしたちが孤児だったころ』と『わたしを離さないで』で一気に花開きます。『わたしたちが孤児だったころ』のクリストファー・バンクスは10歳で孤児となりますし、『わたしを離さないで』のキャシー・Hは生まれながらの孤児です。そもそもクローンなのですから。わたしの講演のなかで取り上げたいのは、イシグロの世界に幅広く見られるこうした孤児のモチーフです。わたしたちは孤児として生まれるのでしょうか? それともわたしたちは人生のどこかの段階で孤児になるのでしょうか? こうした問題をイシグロと一緒に考えてみたいと思います。『わたしたちが孤児だったころ』と『わたしを離さないで』を読んできてください。どちらも人間存在の根本にふれる素晴らしい文学作品です。みなさんに会場でお目にかかるのを楽しみにしています。