2022年10月29日

科学・技術と人文・社会科学の地平の融合

立命館大学国際関係学部 准教授 川村 仁子

 先端科学・技術のリスクと人文・社会科学の課題について議論する。科学・技術、特にAIやナノテクノロジー、遺伝子工学といった先端科学・技術は、人類の抱える問題を解決する手段となり、新たなビジネス・チャンスを作る一方で、 放射性物質や有害化学物質の脅威から、SFの世界のものとして捉えられてきた脅威まで、人間社会の根底にある人間そのものをモノ化することで、これまで築き上げられてきた価値観や権利、安全を覆す存在にもなりうる。つまり、先端科学・技術は人類の「希望」となるのか、「脅威」となるのかという両義性を常に有している。それゆえ、先端科学・技術のガバナンスにおいては、研究・開発を妨げずに、いかに予想を超える被害をもたらしうるリスクに対応するかという、研究・開発の促進とリスク管理の両立が必要となる。

 そして、将来的に科学・技術の発展にも増して重要なのは、それらを私たちの社会がいかに受容し、いかに管理していくかという人文・社会科学の課題である。加えて、技術的先進国と途上国の間の利益の公平な配分、人類全体に関わるリスクの管理などのためにも、国際的な制度あるいは規範によるガバナンスの枠組みが必要とされる。