「これからの夢は?」そう問うと五十嵐さんはまっすぐな目で答えた。「生涯、走り続けたいですね。そして、ガイドランナーとして経験を活かし、パラリンピックの支援活動をしていきたい。」その目には確固たる決意が表れていた。

視覚障害者である和田伸也さんと立命館大学陸上競技同好会(以下:RAC)との出会いは、RAC7期生の先輩が伴走者として紹介されたことから始まる。これまでの5年間、主伴走者(1対1で練習を伴走するガイドランナー)は6名、他補伴走者(団体練習で伴走に一部関わるガイドランナー)数十名に及び、五十嵐さんもRACに所属し主伴走者の一人として和田さんと一緒に練習している。和田さんは、2012年ロンドンパラリンピック5000mT11で銅メダルを獲得、2016年9月開催のリオパラリンピック出場に向けて、練習も追い込み時期に入っている。陸上を始められて10年、数々の記録を打ち立てながら、この夏を選手人生の集大成と位置付け、日々練習に励んでおられる。

繊細な気配り、正確な伝達、選手の目となり「楽しく走る」

「伴走者として心がけていることはランナーを怪我させないこと。トラック練習はコースが整備されて比較的リスクが少ないですが、一般練習者との接触などないように360度の注意喚起が必要です。ロードを走るときはさらに多くの危険が潜んでいます。ランニングコースの選択も伴走者の役割です」。ただ横を走るだけでなく、速度・距離、道なりの特徴の指示等を並走しながら「正確に伝達」するのも伴走者の大事な役目だという。また、和田さんは現在も記録を伸ばし続けている選手。その和田さんと一緒に活動していく中で多くの刺激を受け、五十嵐さん自身の競技成績が格段に伸びたそう。「自分が速くなれば、和田さんにとっても質の高い練習ができる」。相互に“よい影響”を与える関係が築けているという。 もう一つ五十嵐さんは、和田さんがベストな状態で「楽しく走ってもらう」ことも大事にしている。「楽しく走る」ことはRACでも代々受け継がれているDNA。その楽しい雰囲気があるからこそ、そのDNAが継承し続けられているからこそ、和田さんにパートナーとして長年RACが選ばれていると感じているそうだ。

走る喜びを知る、感動を分かち合える仲間との出会いに感謝

「走る」ことを通じてのコミュニケーションと、人間関係の広がりをテーマにRACの活動を続けている五十嵐さん。「昨年のRACの会長時代は、初心者から経験者まで、健康維持から競技記録の向上まで、幅広い目標を持ったランナーが一緒に活動でき、一致団結しお互いを高め合える『走る系総合サークル』作りを目指してきました」と振り返る。いつでもどこでも特殊な道具がなくても取り組めて、個人でも団体でも性別や年齢、国籍、文化そして才能等に関係なく一緒に楽しみを分かち合えるスポーツ、それが走る魅力だと語ってくれた。 最近、大学卒業後も市民ランナーとして「走る」ことを通じて成長していきたいと思う会員が増えてきたという。理由の一つに和田さんとの出会いもあるようだ。「RACの楽しい走りが、二人を繋ぐロープを通じて和田さんに届き、深まった絆。その絆を通じて、私たちは走ることの素晴らしさを改めて実感できた。この出会いに感謝したい」。 RACと和田さんの間に年齢、立場などのborderはない。ただ、走る喜びを知る、感動を分かち合える仲間だ。これからも、五十嵐さんたちは「楽しく走り」続けるだろう。

PROFILE

五十嵐 大輔さん

法学部では、商法(会社法・保険法)を専攻。
高校時代はハンドボール部に所属。以前から好きであった走ることを通じて多くの人と関わりたいとの思いから、大学入学後RACへ。2014.12.7~2015.12.21まではRAC12期会長、2015.1.1~2016.1.16関西陸上競技同好会連盟役員も歴任。2014.2~伴走を始める。

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