2024年、立命館大学将棋研究会は、9月の「トリプルアイズ杯争奪 第20回全国大学対抗将棋大会」と12月の「第55回全日本学生将棋団体対抗戦(学生王座戦)」でともに優勝し、夏冬団体二冠を制した。将棋研究会を7年ぶり、史上3度目の栄光に導いたのが、24年度主将の本田竜大さんだ。トリプルアイズ杯では、個人9勝0敗の全勝賞を獲得するなど、自ら結果を出してチームを引っ張ってきた。そんな本田さんに、勝利の秘訣や将棋と共に歩んできた道のりを聞いた。

アマチュア全国大会優勝の夢

小学3年生の時に将棋と出会って以来、寝食以外の時間を将棋に費やすほどのめりこんだ本田さん。めきめきと頭角を現し、小学5年生で全国8位、中学1年生で全国3位の実績をあげたことから、プロ棋士養成所の試験にチャレンジしたこともあった。しかしプロの世界は想像よりシビアで、1次試験で落ちてしまう。「初めての失敗に落ち込みましたが、父親の励ましもあり『アマチュアで全国優勝を目指そう』と新たな夢に向かって走り出しました」と話す本田さんは、中学3年生で全国大会中学生部門準優勝などさまざまな結果を残した。順風満帆に見えていたが、実は中学時代はずっとスランプと戦っていたのだという。「“将棋が純粋に楽しめない”ことと“勝負所で実力を出し切れない”ことに悩んでいたんです。今思えば、“自分のため”に将棋を頑張っていたからだと思います」と振り返る。
そんな本田さんを変えたのは高校時代の将棋部の先生と部員の仲間たちだった。「顧問の先生や仲間たちの優しさに支えられたことで、スランプを抜け出すことができた。自分のためではなく、みんなのために将棋を頑張ろうと思うようになったことが、私の力の源になったんです」。その結果、高校生の大会で個人全国優勝を2度達成。ついに全国優勝の夢をかなえた。

大きな挫折を経て

将棋が強くて昔からあこがれていた立命館大学に入学後も、本田さんの実力と実績が認められ、1回生から団体戦のレギュラーメンバーとして活躍。2回生になると、関西地区の予選を勝ち抜き、初めての大学個人戦全国大会である「第79回学生名人戦」にも出場する。ところが、本田さんはこの大会で人生最大の挫折を味わうことになった。準決勝で敗北した相手が、悪質な不正を行っていたことが発覚したのだ。本田さんは憤りややるせなさで頭が一杯に。人間不信となり、引きこもった時期があったほど、ショックを受けた。そんなどん底にいた本田さんを支えたのは、同じ将棋研究会の仲間たちだった。本田さんは当時をこう振り返る。「みんな心配してくれましたが、普通に接してくれていい意味で気を遣わなくて済んだんです。一緒にご飯を食べたり、カラオケや旅行に行ったり、そんな日常にだんだん癒され『自分はこのチームに必要とされているんだ』と思えるようになりました。一時はもう将棋が指せないんじゃないかと思うほどだったのですが、支えてくれたみんなのために“恩返し”をしようという気持ちが強くなって。そこで、一番の恩返しは何か考えたときに“将棋研究会を団体戦で優勝させること”だと思いつきました」。

主将としてチームを快挙に

腹を決めた本田さんは、3回生になると自ら将棋研究会の主将に立候補。自身の発言力やリーダーシップの足りなさに迷ったこともあったが、強みである高い向上心と将棋の腕前を生かし「結果を出す姿を見せてチームを引っ張る」タイプのリーダーとしてチームの士気を上げることに成功したという。「約60人もの大所帯のみんなが将棋に真剣だからこその仲間割れがあり、悩んだ時期もありました。でもお互いの強さを尊敬しあったり、相手の悩みや要望を引き出したりできる関係性をつくるよう心掛けていたので、結果的にみんなが付いてきてくれました」と本田さんは語る。
夏冬の団体全国大会同時優勝を目標に掲げた本田さんは、勝ちにこだわり個人的に結果を出していったことはもちろん、団体戦の戦術面を分析し、工夫した。一体どんな作戦を立てたのか。「団体戦に出場するメンバーの並び順とエースの配置を変えました。他大学は並び順の真ん中にエースを置く傾向があるので、こちらは端っこに安定して勝てるエースを置くことにこだわりました」。この作戦と、本田さんを信頼する仲間たちの団結力により、狙いだった夏冬の大会だけでなく、25年3月の「第35回リコー杯アマチュア将棋団体日本選手権」と「第26回学生将棋選手権大会」も制覇し、チームを4度の全国大会優勝に導いた。

より広い勝負の世界を目指して

4回生になり主将から退いた本田さんの次なる目標は、大学卒業後、全国の一般大会で勝つことなのだという。「社会人になっても仕事と両立して大会に出たいと思っています。学生大会とは違って層が厚く、ものすごく厳しい世界だとは思いますが、出るからにはこれまでの知見を生かして優勝を狙いたい」と目を輝かす。本田さんの成長意欲はこれからも尽きることがなさそうだ。

PROFILE

本田竜大さん

三重県津市出身。高田高等学校卒業。趣味は自己啓発書などの読書、アニメ・音楽鑑賞。
将棋の魅力を「1手1手に意味があり、それが会話になるところ。対局相手の性格や考えていること、感情まで分かるのが楽しくて仕方がない」と語る。

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