「バトン」を手に持って回し、高く宙へ投げ、音楽に合わせて全身で表現するバトントワリング。バレエや体操の美しさも融合し、芸術性が高い競技とされる。イタリアのトリノで開催された「2025年IBTF世界テクニカルバトントワーリング選手権大会」に日本代表として出場し、「スリーバトン男子シニア部門」で世界一に輝いたのは、日置大和さん。「今までバトンを続けてきて本当に良かった」と語る、彼の競技人生に迫った。

家族の影響で3歳からバトンを始める

バトントワリングを始めたきっかけは3歳のとき。バトントワリング経験者である母、そして2歳年上の姉が通うバトントワリングスクールへの送迎に付き添う中で、日置さんも自然とバトンに心惹かれていった。姉と同じバトントワリングスクールに所属し、小学5年生でバトンを3本使って演技する「スリーバトン」に初挑戦。バトンの本数が増えるほど競技としての難易度が高くなるが、幼少期からお手玉が得意だった日置さんはバトンを3本操ることを、お手玉で遊ぶような感覚で要領を掴んでいったという。
中学では学校のバトントワリング部に所属して活躍。団体競技で3年連続全国大会に出場し、優勝を成し遂げた。高校時代は、団体種目で大会に出場する傍ら、個人種目にも大会へ出場。頭角を現した日置さんは、ジュニア部門の個人競技で全国大会優勝、世界大会優勝に輝いた。

憧れの職業との間で揺れ動いた進路

順風満帆に見える競技人生。しかし意外にも、高校3年生の頃はバトン競技の引退を考え、別の進学先を検討していた。洋菓子作りが好きな日置さんは、パティシエを目指せる学校を探していた時期もあったという。それでも立命館大学への進学を決意したのは、立命館大学バトントワリング部のコーチから「ぜひ入部してほしい」と誘いがあったからだそうだ。
「洋菓子を手作りして人に渡すと、喜ぶ顔が見られて、自分もうれしくなりました。パティシエは憧れの職業です。一方で、バトンを続けることを勧めてくださる方々の言葉が後押しとなりました。人や環境に恵まれていることに感謝して、バトンを続けていくことを決めました」と、日置さんは当時を振り返った。

栄光の裏に潜む葛藤

幼少期から「バトントワリングはいつも楽しい」と思っていた日置さんは、立命館大学に進学後も大会で輝かしい成績を残す。しかし、日置さん自身の中で大学2・3回生は苦しい時期だったという。
「練習した成果を本番でうまく発揮できず、優勝を逃してしまった大会が何度かありました。優勝できた大会も、決して自分が納得のいく演技ができたわけではありません。バトンを続ける意味は何なのか。どこを目指しているのか分からなくなりました」。
特に、悔しい結果となった大会は大学3回生で出場した24年度の全日本選手権大会。22年度、23年度と連続で優勝し、全日本優勝三連覇をかけた大会だった。周りからの期待もあり、「失敗してはいけない」と重圧に押しつぶされたという。結果は準優勝で、1位を取り続ける難しさを痛感した。

「冷静に、スマートに」自己分析から取り戻したもの

苦戦を強いられる日置さんだったが、世界大会への選考会にて、スリーバトン男子シニア部門で日本代表として出場する切符を獲得。2025年8月に開催される「2025年IBTF世界テクニカルバトントワーリング選手権大会」に向けて、調整を重ねた。
日置さんがバトンをする上で大切にしていることは、「冷静に、スマートに」。他人と比べるのではなく、自己の武器・魅力を分析し、大会でどのような演技がしたいか明確にする姿勢で、さらなる高みを目指した。次第に、日置さん自身が「バトンを楽しむ」気持ちを取り戻したという。スリーバトンを始めて約10年。努力が実を結んだ日置さんは、ついに8月の世界大会で世界の頂点に立った。世界一になった瞬間、今までバトントワリングを続けてきた喜びとともに、自身を支えてくれた人への感謝の気持ちがあふれ出たという。
「これまでバトンを続けてこられたのは、サポートしてくださったコーチや、ともに切磋琢磨したチームメイト、家族や、自分の演技を見て応援してくださる方々がいるおかげです」と日置さんは笑顔を見せた。

学生生活最後の団体戦に向けて

バトンの個人種目で世界一に輝いた日置さんが次に見据えるのは、立命館大学バトントワリング部として、全国大会での団体種目日本一だという。「12月に開催予定で、5連覇がかかる大会です。学生生活最後の大会になるため、有終の美を飾りたいです」と、意気込みを語ってくれた。大学卒業後も、バトントワリングに何らかの形で関わっていきたいと日置さんは抱負を語る。
「バトンは、型にとらわれず、自分の魅力を自由に表現し、人に感動を届けられる競技です。バトンの技術を指導者として教えることも好きですし、一人でも多くの人にバトンの魅力を伝えていきたい」。挑戦を続ける日置さんに、今後も目が離せない。

PROFILE

日置大和さん

大阪府出身。PL学園高等学校卒業。
趣味はお菓子作り。「手作りのお菓子を渡すと、人が喜ぶ顔を見られることが何よりもうれしい」と語る。得意なお菓子はマカロン。

最近の記事