2025年5月に大阪・関西万博の「国連パビリオン」にて開催された「アイスランド・ナショナルデー」のトークセッション。唯一の大学生として登壇したのは川瀬実衣南さんだ。立命館大学国際平和ミュージアム (以下、国際平和ミュージアム)の学生スタッフとして来館者へガイドを行いながら、中学生向けにオリジナル教材「子ども兵士すごろく」を開発するなど、今まで取り組んできた平和への活動について話を聞いた。

修学旅行で立命館大学国際平和ミュージアムを訪問

川瀬さんが平和について真摯に向き合ったのは、小学6年生の時。修学旅行で訪れた国際平和ミュージアムで、国と国の関係において発生するさまざまな課題や紛争、いわゆる「国際問題」を初めて知った。世界には、明日の食事すら確保できない人々や、緊急支援がなければ生きられない人々がいる現実。川瀬さんにとって最も衝撃的だったのは、「子ども兵士」の存在だった。当時小学生だった自身と同じ年齢の子どもが戦場に立っている事実を知り、国際問題の解決に向けて自分にできることは何か考えた。
その後、川瀬さんは国際平和ミュージアムの学生スタッフを志し、立命館大学への進学を決意。入学後、スタッフ募集に迷わず応募した。「今度は教えてもらう側から、子どもたちに『伝える側』になりたいと思いました」と振り返る。国際平和ミュージアムへの訪問がきっかけで心に刻まれた思いは、彼女の人生のターニングポイントとなった。

子ども兵士すごろくを開発

川瀬さんには二つの目標があった。その一つは「子ども兵士をゼロにする」ために、自分にできることを考え、行動すること。その思いを形にしたのが、平和教育の教材として教員が利用することを目的とした「子ども兵士すごろく」の開発だ。
教材開発のきっかけは、1回生で参加したカンボジア短期留学だった。同じチームになった一歳年上の先輩に、子ども兵士について話す場や機会がないという悩みを打ち明けた。川瀬さんの熱意は周囲を動かし、その先輩とともに滋賀県で開催された国際教育の教材について語るイベントへ参加が決定した。イベントでの発表に向けて、特に立命館守山中学校や滋賀県の小学校の教員に協力してもらったという。
「当時、児童労働を扱う教材は数多くありましたが、子ども兵士に特化したものはないことを知りました。『ないなら作ってしまおう』と思い立ちました」と教材開発の経緯を語る。子ども兵士が歩む人生について、小・中学生が理解しやすい伝え方を模索し、ゲーム感覚で学べるすごろく形式を考案。様々な人の協力を得て、「子ども兵士すごろく」が完成した。教材を通して、子ども兵士の問題に対する理解を深め、未来を変える一歩となるように願いが込められている。

目標を叶えて喪失した熱意

川瀬さんの二つ目の目標は、「子ども兵士の現状を自分の目で見る」こと。その目標を実現するために2024年の夏、アフリカ大陸にあるルワンダとウガンダの2カ国へ渡航した。ウガンダで「元子ども兵士の社会復帰支援」に取り組むNPOの取材や、ルワンダで母子家庭の就業支援等を行う企業でのインターンシップに参加するなど、国際問題の現場で実践を重ねた。

入学してから今まで、ほぼ休みなく活動してきた川瀬さん。しかし、日本に帰国後、関心が高かった国際協力や子ども兵士について何も考えたくない時期が訪れたという。責任感の強さが反動となり、二つ目の目標が叶った時点で、次に進むべきステップがわからなくなったのだ。家に引きこもり、心がふさぎ込む期間が続いた。 気持ちが晴れてきたのは、ルワンダとウガンダでの活動報告書を作成した数カ月後。今まで自分が取り組んだ活動を振り返り、何を思ったのかを言語化したことで徐々に気持ちの整理が着いたという。川瀬さんにとって「世界の大きな課題を解決する前に、自分の心と体が幸せで健康な状態でなければならない」と気付くきっかけとなった。

大学生唯一の登壇者として、アイスランド大統領と対話

平和への活動に向けて、再び前向きな気持ちを取り戻した川瀬さんは、これまでの活動が評価され、2025年5月に大阪・関西万博の「国連パビリオン」にて開催された「アイスランド・ナショナルデー」のトークセッションへの登壇が実現。平和と平等についてアイスランドのハトラ・トーマスドッティル大統領と積極的に対話した。川瀬さんは、大統領に自身のこれまでの活動経歴を説明した後に質問した際、返ってきた言葉が印象に残っているという。
「大統領は質問に対する回答の前に、『まずありがとう。あなたのように行動してくれる若者がいることがこの世界の希望です。』とおっしゃってくださいました。その言葉は私の心に深く響き、これまでの努力が報われたような気持ちになりました」。

自分にできることを一歩ずつ

川瀬さんにとってアイスランド大統領との対話は、これから社会に出て働く人として、大統領のように優しさと勇敢さを持つ女性になりたいと思う新たな目標となった。「子ども兵士すごろく」を改良する一方で、ルワンダ・ウガンダで学んだ経験を生かす新たな活動に向けて邁進中だ。今後も、大学卒業まで国際平和ミュージアムの学生スタッフとしての活動も続けていくという。世界の大きな課題に取り組むために、着実に一歩ずつ歩みを進める彼女の活躍に今後も目が離せない。

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