増田さんが「第53回全国学生スペイン語弁論大会」の壇上に上がると、会場はザワザワし始めた。「僕は何歳に見えます??実は20歳なんです…」と増田さんがスペイン語で話し始めると、会場から笑いが起こったという。「普段から年上に見られることが多く、もっと年齢不詳にしようと髭を蓄えて本番に挑みました」。和やかな雰囲気のなか「未来を変えるのは誰?」というテーマで日本の若者の選挙投票率の問題を訴えた増田さん。冒頭で観客を惹き付けることができたことで自身も少し気持ちが楽になり、スムーズにスピーチできたという。

「一部分にチリ弁を織り交ぜたのもよかったかもしれません」。スペイン語圏でもその国によって方言があり、増田さんが独学で学んだスペイン語はチリ弁だった。今回の大会のためにより標準的な発音を身につけたが、一部、チリ弁を使用したことも印象的だったかもしれない。また質疑応答では予測していた内容が質問され、しっかり答えたことも大きな勝因だ。「納得できるスピーチができたので、2位か3位くらいかな…と思っていました。優勝と聞いたときは思わず観にきてくださっていた先生方に向けてガッツポーズがでました!お世話になったみなさんに恩返しできたんだと心の底から嬉しく思いました」と、約1カ月半の練習に付き合ってくれた先生方やアドバイスしてくれた先輩たちへの感謝の言葉も口にした。

チリ留学を経て学んだこと

世界中で4億人が話すスペイン語。話せればより多くの人々とコミュニケーションできると興味を持った。また南米、特にチリの歴史に面白みを感じ、高校1年の2月から1年間のチリ留学を決意。留学が決まると同時にスペイン語の習得を始めた。しかし留学先が初めて受け入れる留学生ということもあり、お互いが手探り状態。また工業高校だったため機械と向き合う時間が多く、現地で初めて覚えたスペイン語は「電球」だったという。

さまざまな壁を超えた増田さんが留学を通じて得たことは、異文化を理解する姿勢。「文化が違う人たちの価値観を理解できないと否定的に考えるのではなく、違いを尊重して分け隔たりなく接することの大切さを学びました」

いろいろな刺激を与えてくれた祖父の存在

自分の意見をわかりやすく伝えるスピーチが好きという増田さんだが、中学までは人見知りの性格だったという。そんな増田さんを変えたくれたのは祖父だった。「『引っ込み思案の性格だと人生損する』と、人前で大きな声を出すなどして鍛えられました」。また祖父と行った初めての海外旅行をきっかけに、世界の広さを感じ、世界に目を向けたいと思ったという。「来春も祖父とイタリア旅行を予定しています」。帰省したときは一番に会いに行き、友達のような関係だという。

「訛りのない、きれいな発音のスペイン語をマスターしましたが、自然に出てくるのはやっぱりチリ弁ですね…」。その飾らない親しみやすい雰囲気は人を魅了する何かを兼ね備えている。将来は、語学と地域のスペシャリストとして日本外交に貢献する外務省専門職員を目指している増田さん。その視線は超えるべき次の壁に注がれていた。

PROFILE

増田直斗さん

奈良県立高取国際高等学校(奈良県)卒業。国際法に関心を持ち、学部ではその内容や考え方を学ぶ。立命館大学英語研究会(E.S.S.)に所属しスピーチのノウハウ学び、英語でのスピーチ大会にも参加。留学生ボランティアなどの活動をする傍ら、ゴルフや映画鑑賞などでリフレッシュしている。

最近の記事