2018年1月に開催された「第31回日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウム」において、JSR2018学生発表賞を受賞した、堤さん。大学院入学後から「シリカ担持コバルト触媒の粒子サイズに及ぼす前駆体効果に関するXAFS解析」をテーマに研究に取り組んできた。この研究は、金属の粒子を小さくすると触媒※の反応をより進めることができるため、どのような要素が粒子のサイズに影響しているかに着眼した研究だ。

※自身とは別の物質の化学反応を促進したり抑制したりする物質

好きな化学と向き合う日々

高校生の頃から化学が好きで、「新規のエネルギーを作れるような研究がしたい」と考えていた。大学進学で選んだ学部は生命科学部応用化学科。その後も化学への興味は尽きることがなく、大学院への進学を決めた。「生活の中には、化学製品があふれ、プラスチックや排気ガスの処理にも使われる触媒は、欠かすことができないものなので、とても興味がありました」と話す。堤さんの研究では、XAFS解析を行うため、普段は放射光施設である大学のSRセンターで行うが、所属する稲田研究室では、X線の強度が高く、より精度の高いデータを得られる、高エネルギー加速器研究機構(以下、KEK)※での実験にも取り組んでいる。KEKは、他大学や企業なども利用する施設で実験できる時間も限られるため、その前には予備実験を繰り返し、有益な情報を得られるよう万全の準備で臨む。限られた時間の中で、他の学生らと優先順位を決め、進めていくことは大変だったという。

※加速器電子や陽子などの粒子を光の速度近くまで加速して高いエネルギーの状態を作り出す、加速器を使って基礎科学を推進する研究所

社会に貢献できるような成果を出したい

毎日朝から夜遅くまで研究に取り組んだものの、思うような結果が出ず、モチベーションが下がってしまうこともあった。それでも続けてこられたのは、「化学が好きだという思いと、社会に貢献できるような結果を出したいという意地でした」と話す。また、就職活動の際、企業見学を行う中で、触媒がさまざまなものに使われており、自分の研究が人の生活に役立つ研究なのだと実感できたことも大きかったという。そして、約2年をかけた研究がようやく実を結び、今回の受賞に至った。学会発表の後日、受賞の連絡を受け、「最初はなかなか実感がわかなかったですが、結果をだすことができ、嬉しかったです」と振り返る。

培った研究力と長所を生かして

もともと人前で話しをしたりすることが好きだったが、研究を進めていく中で知識だけでなく、論理的に話す力が身についたと実感しているという。学会での発表や授業のディスカッションなどで、根拠を示し順序立てて説明することを、教授の指導のもと徹底して学んできた。学会発表前の発表練習では、語尾の少しの違いでもニュアンスが変わってくるため、表現や言葉にも気を使った。「発表練習が一番緊張しました」と笑顔で話す。今後は、これまで培った知識や分析力、話す力を生かし、空調業界の技術営業職として働く予定だ。

PROFILE

堤 直紀さん

奈良県立郡山高等学校(奈良県)卒業。学部4回生から、稲田康宏教授の無機触媒化学研究室に所属。小学校から高校まで、剣道に打ち込む。学部2回生の頃から2年間生命科学部オリター団に所属し、4回生では学友会全学自治会初年次担当として活動。研究の合間には、ジグソーパズルでリフレッシュしたり、スノーボードを楽しんでいる。

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