地域の人が集うコミュニティの場に

2018年4月にオープンした大阪・いばらきキャンパス近くにあるシェアハウス。1階は、地域住民や学生などさまざまな人が集うフリースペース「○○荘(読み:まるまる荘)」として、2階はシェアハウスとして2人の住民が暮らしている。このシェアハウスは矢野さんが代表理事を務め、「空き家を『人々に夢を与える場所』へと変えていく」を理念とする一般社団法人Genusが、空き家の利活用施設の一つとして、運営を手がけている。「○○荘」では、食事会や留学生によるイベントや認知症を考える会を開催したり、オススメの本を紹介しあったりするなど、老若男女が集まりさまざまなイベントが開催されている。矢野さんらは、場所を提供し、企画者と地域をつなぐ役割を担う。一般社団法人Genusは現在、空き家オーナーと空き家利活用希望者が繋がるマッチングサイトの運営、シェアハウスとイベントなどを行うレンタルスペースの2軒を運営している。今後はさらに軒数を増やしていく予定だ。

空き家問題×コミュニティの場づくり

大学入学当時から「いつか起業したい」という漠然とした思いを持っていた矢野さん。さまざまなセミナーや経営者の人が集う食事会などに積極的に参加した。そこで自分の夢を熱く語り、切磋琢磨しあう人々と出会い、「自分も胸を張って夢を語り、突き進める人間になりたい」と強く思うように。矢野さんは自身に強い思いを与えてくれたこうしたコミュニティの場を自分で作っていきたいと考えるようになった。その頃、授業で空き家問題について知り、「空き家を利活用し、コミュニティの場作りをすることで空き家問題解決の一助になるのでは」と思い、2017年6月に高校時代の友人とともに一般社団法人Genusの前身となる学生団体Genusを発足させた。

起業という夢への一歩を踏み出す

団体発足後、空き家のマッチングサイトの運営を手がける企業でインターンシップとして関わったり、空き家モデル活用事業をしている人に話を聞くなど、さまざまな形で空き家について学んだ矢野さん。当時は、就職して仕事をする傍ら、シェアハウスの運営をしようと考えていたが、先輩の経営者らから「住民の人生を預かる責任を持たなければならない。それを生半可に取り組むのはどうなのか」と問われ、真剣に考え抜いて出した結論が、起業することだった。この大きな選択に「怖かったです。今でも怖いです。それでもボランティアや自己満足で終らせることなく、継続的に取り組み、空き家を人々に夢を与えられる場所にするには、自分たちが夢を追いかけ叶えていく姿をみせていきたいと思ったんです」と振り返る。その決断を後押ししたのは、先輩の経営者や親の「やれるところまでやってみたらいい」という言葉だった。そして、副代表として、共に団体を立ち上げた友人も起業を決意してくれたことは、大きな支えとなった。そして、2018年2月、ついに一般社団法人Genusとして新たなスタートを切った。

理想を追い求める

運営していく中で、理想と現実の兼ね合いが難しかったと話す矢野さん。経済面やイベントの運用ルールなど妥協しなければいけないこともあり、初めは厳しさを感じることもあったが、最近ではいかに理想と現実の両方を得られるかを考えるようになったという。この活動を通じて、改めて人の持つ力、そしてつながりの大切やその強さを感じたという。「コミュニティの場があったおかげで、夢に近づけたと言ってもらえたことは嬉しかった」と笑顔を見せる。「自分でやりたいと思う道を選んだ以上、悔いなくやりたいことを追究し続ける」その強い決意を胸に、これからも夢に向かって、突き進んでくれることだろう。

PROFILE

矢野童夢さん

大阪府立三島高等学校(大阪府)卒業。中学では軟式野球、高校では陸上部でハードルに打ち込む。上久保誠人教授のゼミに所属し、「空き家の手段的価値の創出」について研究を進めている。休日には、空き家の物件探しをしながら、その活用方法を考えるのが楽しみ。2018年10月に開催された公益資本主義推進協議会主催のマイコミュニティフォーラム(社会貢献活動を通じて社会課題を解決している団体の取り組みに関するプレゼンテーション大会)にて、大賞を受賞。

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