2018年11月、久保博嗣教授の無線信号処理研究室で取り組んでいるUWAC(Underwater Acoustic Communications:水中音響通信)の研究テーマに関連し、NTTとの共同水中音響通信実験にて、370mの通信実験と、大容量の音響通信実験に成功した。この共同実験計画は、2018年4月から本格的に始動し、5人の院生が海洋資源調査に無線通信技術で社会貢献することを目指し、研究に励んでいる。今回の共同実験で、主に長距離通信を担当した佐野さんと、大容量通信を担当した吉井さんに研究への思いを聞いた。

初の海での実験に向けて

この実験はNTTとの共同で行われ、共同実験メンバーが開発したチャネルサウンダ※と通信方式のフィールド試験を行った。今回は、研究室として初めての海での実験で、かつ最大水深30mという厳しい通信環境で実験を実施。海での通信を目指して取り組んできた彼らは、この実験をなんとしても成功させたいと強い思いで臨んでいた。実験では、思いもよらないトラブルが発生してしまうことも多い。そのため、人為的ミスによる失敗がないよう、最大限の準備をしたという。佐野さんは、「自分たちが事前にできることはやりきったので、後は当日にそのときできる最善を尽くすことを考えていました」と話す。吉井さんは、「実験は、楽しむことが大切です。準備は、もちろん慎重に慎重を期しますが、当日は楽しめていました」と笑顔で振り返る。

※伝搬環境の調査

実験成功の瞬間

長距離通信と大容量の伝送速度を試験した結果、長距離通信では370mの通信に成功し、大容量のデータ通信に関しては数10kbpsの伝送速度通信が部分的に成功という結果だった。これまで、学内の実験施設で5m~10mほどの通信や琵琶湖の湖岸での通信などでは成功したものの、370mという長距離において結果をだせたことは、大きな前進となった。370mの通信が成功したときには、「これまでの人生で一番嬉しかった。この瞬間に立ち会うことができ、本当に良かったです」と笑顔で話す佐野さんから、大きな喜びが伝わってきた。吉井さんの大容量のデータ通信は、これまでの学内施設や琵琶湖での実験では期待通りの結果が得られず、今回の実験で初の成功となった。吉井さんの通信方式は、非常に条件が厳しくなかなか目標を超えることができなかったという。解析後、データ通信が無事できていることを確認したとき、研究室で大喜びした。吉井さんはこれまで、先輩の全ての実験にも参加し、必死に研究に打ち込んできたものの、うまくいかないこともあった。しかし、先輩の「超えられない壁はない」という言葉を胸に、諦めず研究に向き合い続けてきた。そんな彼らにとって、今回の実験成功は、どれほど嬉しかったことだろう。

引き継がれていく研究への思い

今後も来年に行われる実験に向け、移動環境での成功を目指して研究に励み、その技術を後輩たちに引き継いでいくという二人。「いつか日本の海洋資源探索に、自分が携わった音響通信技術が使われ、この研究室が社会貢献できるようになってほしいです」と、話す佐野さん。吉井さんは「先輩たちの代から少しずつ積み上げてきた結果があり、自分たちの代でここまで結果をだすことができました。順調にいかないことがあるかもしれませんが、それでも諦めず、水中音響技術を発展させていってほしいです」。この技術をさらに磨き、研究成果を社会貢献につなげていきたいという彼らの強い思いは、受け継がれていくことだろう。

PROFILE

佐野隆貴さん

静岡県立富士高等学校(静岡県)卒業。幼少の頃から始めた水泳が得意で、今でも趣味として続けている。専門種目はバタフライ。野球観戦が好き。休日も研究室の仲間と一緒に食事をしたりすることがリフレッシュになっている。 今後は、陸上音響通信の研究テーマにて取り組んでいる通信方式の伝送速度の向上と、タブレットで動かせるアプリを開発することが目標。

吉井 綸太朗さん

東海高等学校(愛知県)卒業。中学、高校時代は、野球部に所属。大学では、軟式野球サークルでも活動。学部3回生から、駆け込み寺講師(低回生に勉強を教え、専門外であっても一緒に考えアドバイスする)として活動を続けている。 今後は、現在研究している通信方式を用いて、通信距離の拡大と移動環境での性能評価を目指す。

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