「AI(人工知能)を用いたCT画像に映る肝臓腫瘍候補自動検出」について研究を行っている轟さん。彼の研究は、複雑な5種類の腫瘍を同時に検出することができ、造影剤の映り変わりによる見え方を考慮した研究だ。このような研究は世界的にも少なく、貴重な研究である。卒業後、AIエンジニアとして「AIを搭載した医療機器の開発を目指す」という彼に研究への思いやこれまでの研究生活について尋ねた。

医学の道からIT技術と医療の道へ

医学の道を志していた轟さんが、「ITと医療」に興味を持つようになったのは、アメリカのテレビ番組で、ITと創薬技術に関する番組を見たことがきっかけだった。「いつか、高度なIT技術者が医療現場に参入する日がくるのでは」と思い立ち、「ITと医療を学び、IT技術者として医療現場で医療の質を向上させたい」と情報理工学部の陳延偉教授の下で学ぶことを決意した。彼が現在の研究テーマを選んだきっかけは、自分と同年代の人が肝臓がんを患い、闘病しているというニュースをみたこと。自分に何かできないかと考えた轟さんは、肝臓がんをテーマに新しい技術を取り入れた研究に挑戦することにした。

海外の研究環境に刺激を受けて

3回生の夏、大学のプログラムで2カ月間インドの大学院に留学し、ITプログラムのフィールドワークに参加したことで研究の面白さを改めて感じた轟さん。「研究がまだこれからというときに卒業していいのか」と大学院への進学を決め、大学入学前にさまざまな国に一人旅をしたことやインドへの留学経験から、海外の最先端の研究の場を求めて研究留学を目指した。大学院進学後、文部科学省が行っている留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」に応募し、6期生としてシンガポールの政府管轄研究機関であるシンガポール国立情報研究所にて約3カ月間、研究に取り組んだ。

シンガポール国立情報研究所は、世界高水準の学生インターンを受け入れている施設で、その環境で学ぶことは不安もあったという。しかし、自分たちが大学院の研究室で行っているような研究も行われており、「自分もやっていけるのでは」と、自信につながったと振り返る。シンガポールで驚いたのは、新しい技術の研究から社会への実応用までのスピードがとても早いことだった。研究所の横には、スタートアップ企業が多く入るビルがあり、研究者が研究をしながら、自分の会社で働くといった環境があり、そのような環境を政府が後押ししていることに感激したという。シンガポールへの留学は、研究への考え方が成長した機会にもなったと振り返る。留学中、シンガポールに留学して満足している自分に気づき、「あくまでも通過点に過ぎない。今できることを精一杯やろう」と、研究をどう応用させるかなど、先を見据えて考えるようになったことで、研究に対する姿勢も少しずつ変わっていったという。ある研究者に「研究は社会に出すまでが研究だ」そういわれ、学部生の頃に著名な研究者にかけられた同じ言葉を思い出した。当時は、まだその言葉の意味があまりわかっていなかったが、今では轟さんも大切に考えていることだ。

これまでの研究生活を振り返り、「好きだからこそ、研究に没頭できたと思います。研究をどのように世の中に役立てるか、いかに人に伝えるかを大切しています」と語る。「ITと医療を学び、IT技術者として医療の向上を目指す」、その初心を貫き通した彼の研究への思いはこの先も揺らぐことはないだろう。

PROFILE

轟 佳大さん

春日高等学校(福岡県)卒業。陳延偉教授の知的画像処理研究室所属。小学校から、高校まではサッカーに打ち込む。ジャンルを問わず、映画や音楽、美術を鑑賞することが好き。アルバイトでは、公益財団法人稲盛財団が主催する「京都賞」の式典の運営に携わり、約200人のスタッフを束ねた経験を持つ。「トビタテ!留学JAPAN」での留学を目指す学生をサポートするため、研究の傍ら、個人で全国各地の学生から相談を受け、多くの学生を合格へ導いた。帰国後のトビタテ生や、支援企業の交流の場でもある、「TOBITATechカンファレンス」で、プレゼンを行ったり、医師向けのAIに関する講演なども行っている。

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