琵琶湖の固有種であるビワマスが川を遡上する姿を復活させようと、野洲市で3年前から魚道を設置するなど、環境改善に取り組んできた地元自治会や県や市、企業などで組織されたプロジェクトチームに、1年前から地元の参加者では唯一の学生として参加している戸簾さん。2018年11月には、設置した魚道を遡上する1匹のビワマスが確認された。チームにとって、試行錯誤を重ねてようやく実った結果だ。「少しでも力になれたことが嬉しい」と笑顔で語った。

課外活動団体での学びを生かして

大川活用プロジェクト支援団体「haconiwa」(以下、haconiwa)の代表として、小学生を対象に四季を通じた環境学習に取り組んできた。植物の調査や琵琶湖の調査、川のプランクトン、水質調査を行うなど、環境改善活動には、もともと興味を持っていた。2018年2月にhaconiwaの活動の一環で参加したフォーラムで、ビワマスの環境改善活動のことを知った。そのグループが、地元近くの川で活動をしていることへの驚きや「ビワマスの環境を改善していきたい」という人々の思いに共感して、活動に参加することを決めたという。

学生だからこそできることを

5月からビワマスの稚魚の調査活動を行い、産卵しやすい土壌、産卵床の整備に取り組んだ。どのような土壌がよいのか、有識者を交えて話し合いを重ね1日中スコップを持ち、川の中で砂利や土をかき混ぜるなど、作業は4日間にも及んだ。産卵床の広さや高さなど、経験則のため、手探りの状態で難しかったと振り返る。禁漁期間中は、禁漁被害をなくすため、バイクで周辺の見回りをしたり、できることに積極的に取り組んだという。また、生物の食物連鎖や、植物、生物の産卵などのメカニズムに関する知識を持つ戸簾さんは、専門家の説明を地域の人にわかりやすく説明するなど、研究者と地域の人をつなぐ役割も担えたと感じている。そこで生かせたのは、EDGE+R(イノベーション・アーキテクト養成プログラム)など、他の活動で培ってきた説明する力だったという。

地元で取り組むことの難しさ

「地元であるにも関わらず、知識やそれまでの経験がないことに対する疎外感を感じ、コミュニティになじんでいくことに苦労しました」と活動の難しさを振り返る。「近年は、外部の人が地域住民と一緒に取り組む事例も多く、外部の人だからこそ、地域に受け入れられやすくなっていると感じます。だからこそ、新たに地元の人が活動に加わることに難しさがあるのでは」と地域の課題も感じたという。しかし、今回の活動で外部の力だけでなく、自分たちでやり続けていくことの重要性を思い知らされたという。「自分の地域でできることをする、その重要性を伝えたい」と力強く語る。

今後もビワマスの環境改善活動を続けていく予定だという戸簾さんは、haconiwaだけでなく、Sustainable Week、自転車のブレーキシステム開発など、多様な活動に取り組んでいる。現在は、主に滋賀県を中心に活動しているため、「滋賀にとどまらず、近畿圏、全国とフィールドを広げ、その学びを滋賀県での活動に生かしたい」と話す。さまざまな活動での学びを生かし、さらに活躍の場を広げていくことだろう。

PROFILE

戸簾隼人さん

立命館守山高等学校(滋賀県)卒業。若山守教授の酵素研究室に所属。酒や発酵食品に興味を持ち、酵母や酵素を活用した研究に取り組む予定。趣味は、バイク整備や植物の栽培など。立命館大学新聞社では、BKC局長も務めた。現在は、滋賀県のエコツーリズムに関して活動する学生団体Tabiwaや、自転車のブレーキシステムの開発に取り組むEDGE SPROUT、Sustainable Weekなど幅広い活動に取り組む。

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