「私たちが子どもたちの“食べる”ことの架け橋になりたい。子どもの頃に食の素晴らしさを知れたら、子どもたちの人生がもっと広がっていくと思うんです」そう話すのは、全日本学生料理協会の関西支部代表で、大学の食育促進学生団体「パンチャピエーナ」代表の萬福天弓さん。2019年5月に草津市で、月に一度、小学4~6年生の子どもたちが食材の調達から調理、後片付けを通して食について学ぶ「子どもキッチン」の開催を始めた。「子どもたちが生きるために“食べること”から離れないでほしい」という彼女の強い思いが込められている。

子どもたちが「食べる大切さ」を学ぶ場所をつくる

「子どもキッチン」を始めたきっかけは、貧困家庭の子どもに食事を提供する「子ども食堂」が資金・人手不足で十分な活動ができない現状に危機感を抱いたからだった。「子どもたちが自分で料理ができるよう自主性を育てられれば、少しでも問題解決につながるのではないか」そんな思いから全日本学生料理協会で「子どもキッチン」の企画を進めた。運営は協会に所属する「パンチャピエーナ」と、伝統食を学ぶ学生団体「Slowfood youth滋賀」が協力して行う。ポイントは「学部での学びを子どもたちに伝える」こと。第一回目のテーマは『「鹿肉カレー」〜森と共に生きる〜』。山で野生の鹿が増え、農家などに被害が及んでいることを学部で学び、「野生の鹿が何百頭も殺されて、焼却処分されてしまっているのが現状。でも、きちんと調理できれば私たちの命につながる“山の幸”になることを伝えたいんです」と話す萬福さん。子どもたちが初めて食べた鹿肉を「おいしい!」と喜んだり、活動後に草津市のさまざまな団体や保護者の方から、運営援助の声やたくさんの応援メッセージをもらったことが嬉しかったと話してくれた。

地元でみつけた食の魅力

小さい頃、母親と一緒に料理をすると、家族が喜んで食べてくれた。その頃から料理の楽しみを学んでいたという。高校2年生の頃、父親がALSを患い身体の自由がほとんど利かなくなってしまった。かすかな会話くらいしかできないなか、それでも、家族で食卓を囲む父親はいつも楽しそうに食事をしていたという。「父は病気で食べることが難しいなかでも、本当に好きなものなら食べられるんです。それが嬉しくも不思議で、そこに食の魅力を見つけました。“食べることは人を笑顔にするんだ”」。地元の鹿児島県出水市で地域振興のボランティアに携わっていたこともあり、子どもの数が減っていく地元を盛り上げるため、食に関わる仕事で地域に貢献したいと考えるようになった。そして「夢を実現できるのは、ここしかない!」と食マネジメント学部第一期生として入学を決意。

“食”で人を笑顔にするために

入学後は勉強会へ参加したり、「パンチャピエーナ」で食育活動に取り組んできた。この学びを子どもたちに伝えるために始まった「子どもキッチン」。これから県内外で食に携わる団体と関わりを持って、草津市から滋賀県全域へ、そして全国で開催してたくさんの子どもたちに機会を与えたいと力強く話す。2019年夏には、子どもたちと農家に泊まって料理を学ぶイベントも計画中。「今、一番大切なのは『パンチャピエーナ』のみんなです。私が好きなことに全力で取り組めているのは、みんなのおかげ」と話す彼女は、一緒に活動を通して、メンバーとかけがえのない学びを得られるよう努めている。力を貸してくれるメンバーや家族、先生のためにも必ず恩返しがしたいと笑顔をみせる。「小さな頃、たくさんの人から食の魅力を教えてもらったように、私も“食”で人を笑顔にし、地域に貢献したい。この気持ちを大切にして、卒業までに興味を持ったことには何でも挑戦していく」と目を輝かせる彼女は、食の力で地域社会への貢献を目指す。

PROFILE

萬福天弓さん

出水高等学校(鹿児島県)卒業。食べることも料理をすることも大好き。最近は京都で本格ナポリピッツァを勉強中。学部にあるピザ窯で美味しいピッツァを焼くことに励んでいる。

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