二人が1本ずつ大きなオールを持ち、それぞれでボートの左右片側を同時に漕ぐボート競技種目「女子舵手なしペア」。ボートの前方に座る※4回生の髙野晃帆さんは、左側のオールを握り、ペアと息をぴったりと合わせて漕ぐ。これまで数々の大会で結果を残してきた彼女が次に挑むのは、2019年7月24日~28日にアメリカで開催される「U23世界選手権」。日本代表の誇りを持って「私たちが活躍することで『舵手なしペア』の魅力を広め、日本の競技力向上に貢献したい」という思いを胸に、握ったオールに力を込める。

※ボート競技は進行方向に背を向けて進むため、髙野さんは写真右

仲間と漕ぐ楽しさが成長につながる

高校入学前に誘われたボート競技大会。そこで少しだけマシンローイングを体験した。その様子をみた高校ボート部の顧問が言った「君なら世界を狙えるから、やってみない?」この一言が、中学生の髙野さんの好奇心をくすぐった。ここから、彼女のボート競技人生が始まる。高校では精一杯練習を重ねると、一人で漕ぐ種目「シングルスカル」で学内選考に選ばれ、ペアで漕ぐ「ダブルスカル」の日本ジュニア代表になるほどの成長をみせた。しかし代表では成績上位のシングルスカルの選手同士で一時的なペアを組むだけであったため、本格的に“チームボート”の練習に取り組んだのは大学に入ってからが初めてであったという。一人で漕いできた彼女にとって、ほかの部員と合わせて漕ぐことに始めは大苦戦。お互いに気持ちを伝え合い、漕ぎ方の癖や考えを理解できるようになると少しずつ練習の雰囲気が良くなっていったという。仲間との練習を通して、一人のときでは出会えなかった課題を見つけ成長してこられたと笑顔をみせる。「早朝練習で早起きは苦手だけれど、みんなで取り組む雰囲気があるからモチベーションが保てている。辛いときに声をかけてくれる仲間がいるから、頑張ろうって思えるんです。チームに入れて本当によかった」と嬉しさをにじませた。

究極のチームスポーツがここにある

舵手なしペアは一人が片方しか漕がないため、もう一方は相手に任せるチームワークが必要な種目。昨年のU23日本代表のヘッドコーチが言った「舵手なしペアは相手を思いやる気持ちが大切。たとえ自分が大変でも“相手が漕げればいい”という気持ちに切り替えなさい」この言葉を胸に、ペアが気持ちよく漕げることを心がけているという髙野さん。「チームボートは、究極のチームスポーツです」と胸を張る。何人でボートに乗ったとしても、チームでは優れた選手が一人いたところで速いスピードは出せない。一人が頑張っても勝てないが、仲間を思いやり全員で揃って漕ぐことが、大きな結果につながる。全員の全力が揃ったとき、抵抗もなく水面を駆け抜けるような、最高の瞬間があるという。「この瞬間を感じられるのはチームボートの醍醐味。楽しくていつまでも漕いでいたい」と嬉しそうに語ってくれた。

日本代表として“舵手なしペア”でボート競技を盛り上げたい

2018年に初めて日本が「舵手なしペア」種目で世界大会に出場することになった。日本ボート競技のなかではまだ認知度が低い種目であるため、全日本で優勝しても、ほかの種目のように注目してもらえないこともあるという。自分が活躍することでこの種目の魅力をたくさんの人に知ってもらい、競技者の増加や日本のボート競技全体の競技力向上に貢献したいと話す。今年は髙野さんにとって二度目のU23世界選手権になる。昨年は世界との格差を実感し悔しい思いをした。あれから一年、悔しさを糧に力をつけてきた。「私たちの活躍が日本の『舵手なしペア』の基準になる。自分たちの力を世界で試せるのが楽しみで、わくわくする」と心を躍らせる彼女は、世界を相手に大学最後の大舞台を迎える。

PROFILE

髙野晃帆さん

日田三隈高等学校(大分県)卒業。家族の影響もあって、小さな頃からスポーツ好きでアクティブに過ごす。小学生の頃には仲良しの友人に会うために、マウンテンバイクで2時間かけて山を越えていたという。中学校卒業まではバレーボールに励む。オフの日には撮りためたテレビ番組をみるなど、休日を満喫する。

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