立命館大学珠算部は、年に10回もの大会に参加している。そろばん大会の会場では、張りつめた空気の中、「よーい始め!」の掛け声で、一斉に紙を裏返し、そろばんをはじく音、鉛筆を走らせる音がする。「そろばんグランプリジャパン2019」(※)シニア部門で初の優勝を果たした鈴木さんは、独特の緊張感があり、精神面の戦いでもあるそろばんで最も重要なのは、「集中力」と言い切る。「制限時間があり、多くの数字が並んでいるのを見ていると精神的に圧迫される。心を乱さずに集中できれば、本来の力を発揮できる」と話す。

※かけ算、わり算、みとり算、かけ暗算、わり暗算、みとり暗算の得点の合計で競われ、予選を通過した10名で決勝を競う

毎日コツコツ続けてきたそろばん

自宅が珠算塾で4歳から当たり前のようにそろばんを始めたが、中学時代は陸上部に所属し、高校ではサッカー部の活動に熱中していたため、一時はそろばんから心が離れていた時期もあった。しかし、部活動で珠算の十分な練習時間を確保できなくても、早朝に1時間、質の良い練習を心掛けずっと続けてきた。「両親がそろばんを強制するわけでなく、私がしたいことを優先させてくれたからこそ、ここまで続けてこられた」と話す。そろばんの練習をしない日が続くと手が鈍って動かなくなるため、少しずつでも毎日続けることを大切にしてきたという。

団体戦への挑戦

大学では、珠算部として団体戦に出場できることに魅力を感じて、もう一度そろばんに取り組むことを決めた。団体戦は部から代表で3人の選手が出場し、3人の合計点で競う。鈴木さんは1回生の頃から3回生、4回生とともに、団体戦に出場してきた。1回生の頃は、「自分が足を引っ張ったらどうしよう」という不安があり、大会ではあまり緊張しなかった鈴木さんも緊張することがあったという。しかし、2回生から2年間、部長を任せられ「自分がチームを引っ張りたいという気持ちが強くなり、大会でも思い切りできるようになった」と振り返る。

思い切り攻めて掴んだ日本一

2019年7月に開催された「そろばんグランプリジャパン2019」は、就職活動などもあり、思うような練習ができずに臨んだ大会だった。しかし、「思い切り楽しもう」と思えたことが攻めの姿勢につながったという。予選では、確実に決勝進出できるよう集中して臨み、決勝戦への切符を獲得。決勝では、全員が最高のスピードで挑むため、点数よりスピードを重視したという。5種目終わった時点で鈴木さんは2位。最後の種目で満点を取らなければ勝てない状況に、「思い切りやって、悔いがないようにしよう」と挑んだ結果、1位の選手と同点となり、解答後の挙手スピードで6種目合計スピードが速かった鈴木さんの逆転優勝となった。「守らずに攻め続けたことで逆転できたので、嬉しかった。逆転優勝が決まり、観客が拍手をしてくれた光景が忘れられない」という。

その後、600人以上の選手が参加する8月の「令和元年度全日本珠算選手権大会」では、1500点満点中、1485点の15位で入賞を果たした。大学4年間の中で、最もよい結果で、立命館大学からは唯一の入賞となった。10月の「全日本通信珠算競技大会京都府大会」では、個人戦、団体戦で4連覇を達成し、着実に結果を残している。「仲間の大切さを感じ、自分だけでなく、他の部員の点数を上げるためにどうしたらいいかみんなで考えてきた。今までで一番そろばんのことを考えた時間だった」とそろばんと向き合い続けてきた学生生活を振り返った。「社会人になっても挑戦し続ける」とさらなる意欲をみせ、「大会で出会う子どもたちにも強くなってもらえるように一緒に頑張りたい」と柔らかな笑顔で語った。

PROFILE

鈴木ひとみさん

兵庫県立西宮高等学校卒業。中学時代は陸上部に所属し、高校ではサッカーに打ち込む。現在は、他大学のサッカーサークルに参加して、サッカーを続けている。岡本直子教授のゼミで、「珠算学習と記憶の関連性」について研究している。全国珠算教育連盟、日本珠算連盟のそれぞれの段位認定試験で珠算10段、暗算10段を取得。大学入学後は、平日は1時間半、休日には3時間ほどの練習を行っている。

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