わずか4m幅の狭路でのスラロームや、ボックス内での転回、クランクやS字など細かな運転技術とタイムを競う自動車運転競技、通称「フィギュア」。スピード競技のような派手さはないが「フィギュアは“努力した分だけ上手くなる”そう自信を持って言える競技です」と、自動車部の若林千尋さんは教えてくれた。彼女は11月の「2019年度全日本学生自動車運転競技選手権大会」小型貨物の部で個人成績1位を収め、さらに自動車部初の女子団体日本一に貢献。現役最後の大会で優勝した喜びと、後輩たちへ託した思いを語った。

※フィギュアの大会は小型乗用の部、小型貨物の部で行われる。小型貨物の部では2tトラックを使用。

磨き上げた運転技術を競い合う

サーキットでタイムを競う「ジムカーナ」や未舗装路を走る「ダートトライアル」など迫力あるスピード競技に比べ、知名度の低い競技「フィギュア」では、狭路で何度も車を切り返してコースを進み、運転技術とタイムを競う。コースの枠線や障害物を踏めば減点。発進や停止、バックなど運転手順の誤りも減点対象となる。「少しのミスが取り返しのつかない状況を生むため、常に細かく修正する技術が必要です」と話す若林さん。父親が自動車会社に勤めていたこともあり、彼女にとって車は小さい頃から馴染み深い存在であった。手際よく2tトラックを運転してみせるが、試合中は助手席に同乗する審判と各車輪の真横に立つ4人の審判の厳格な監視のもと、非常に緊迫した雰囲気のなか競技が行われるという。

努力で広がる可能性。フィギュアで初の日本一に輝く

「フィギュアは全大学が同じ車両を使うため、みんな同じ条件で勝負ができる」彼女はそう力強く語る。スピード競技では各大学がそれぞれ専用の車両を所有しているが、高額な車両や女子専用のものを複数台持つには金銭的な負担が大きく、立命館大学では限られた車両を男女で共用している。男子仕様にできた車両は女子にとってサイドブレーキやギアの位置が遠く、不利な点も多いという。一方でフィギュアには特別な車両やサーキットのように広大な敷地は必要なく、一般的な小型乗用車と小型貨物車をレンタルすれば、部の敷地で存分に練習ができる。「練習するほど勝てるチャンスは広がりますが、スピード競技のように『車両差』で言い訳はできません」と笑顔をみせる。強豪校に勝つため、部員や他大学の選手と協力して練習を重ね、技術を磨いてきたと胸を張る。

練習の成果を発揮するはずだった全日本の試合では、プレッシャーにより減点を重ね、納得のいく結果にならず悔しさをみせた。しかし会場の緊迫感は他大学も同条件で、ほかの選手よりも速いタイムを記録した彼女が個人初の全国優勝を決めた。「その瞬間は本当にびっくりして『やったー!私、優勝しちゃいました!』って、走ってコーチに報告しにいきました」と溢れた喜びを振り返った。小型乗用と小型貨物の部での個人成績が団体成績に繋がるため、団体女子は部史上初の日本一を掴んだ。

自動車への思いを後輩たちへ繋ぐ

女子部員では唯一の上回生として後輩を引っ張ってきたが「最後に全国優勝できて、とても満足しています」と、現役引退後の思いを語った。他大学には下級生からレベルの高いところが多く、チームが今後も結果を残すには、低学年から経験を積むことが大切だという。「サーキットで練習できる機会も少なく、大会で走ることでさえ貴重な経験になります。低学年から経験を積むほど成長できるため、後輩たちがたくさん走れる機会を作りたいんです」と話してくれた。チーム思いで、今までも競技と両立してタイムの計測や記録員、書類の整理などチームの補助も熱心に取り組んできたが、「それも全部、私が好きでやっているんです」と無邪気に笑う。これからは後輩たちの活躍を楽しむために、指導や補助としてチームに貢献したいと話す彼女は、新たな世代に確かなバトンを繋いだ。

PROFILE

若林千尋さん

群馬県立太田女子高等学校卒業。好きな競技はダートトライアル。未舗装路を走るため、車は大きく揺れ横転など危険に近い競技でもあるが、どの競技よりも「運転している」実感を楽しんでいる。下級生の頃からガレージ整理に努め道具の管理に長けており、自動車部では探し物詮索係としても活躍中。



<2019年の大会成績>
2019年度全日本学生自動車運転競技選手権大会 小型貨物の部 1位
2019年度全関西学生自動車運転競技選手権大会 小型貨物の部 1位
第2回全関西学生ダートトライアル選手権大会 2位
第2回全関西学生ジムカーナ選手権大会 3位

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