2019年11月、日本中世英語英文学会全国大会で学会発表奨励賞を受賞した人文学専攻英米文学専修の松本さん。「チョーサーの『カンタベリー物語』における中世の女性論争」について研究を行っており、初めて学会での口頭発表を行った。書類審査の通過者は、教員や博士ばかりで、修士では松本さん一人だけだった。文系の研究では、修士で口頭発表をする機会を得ることは難しいという。受賞を受け、「私でいいのだろうか」という思いもあったそうだ。しかし、「学業の締めくくりとして、成果を残すことができてよかったです」と笑顔で語ってくれた。

英文学との出会い

英文学を学ぶきっかけになったのは、中学時代に読んだ『ナルニア国物語』。それからギリシャ神話や北欧神話をモチーフにした物語に夢中になり、文学部の国際文化学域英米文学専攻に進んだ。2回生の後期から約1年間、英文学研究の評価が高いイギリスのスコットランドにあるエジンバラ大学へ留学した。日本では、現代の英文学しか学ぶことができなかったが、イギリスでは、歴史の流れに沿った文学を学ぶことができ、つながりを知ることでより英文学の源流に興味がわいたという。そして、中世に関心をもち、大学院で研究を続けることを決めた。「私たちとは、全く異なる世界の在り方、男女の在り方、宗教観を持った人たちがどんなことを考えていたかを文学から解き明かしていくことが面白いです。そして、考え方は違うけれど、笑いや同情など、どこか人間として通ずるところがある。人間の普遍的な部分と時代によって異なる部分を見られる、それが面白いです」と魅力を語る。

そして彼女が「女性論争」に着目したのは、中世英文学での女性の扱いがあまりにも現代とかけ離れていたからだった。当時の作品は、女性が虐げられていたものが多かった。しかし、何人かの作家は、女性の権利が虐げられていることへの疑念を呈した作品を書いていた。チョーサーもその一人で、『カンタベリー物語』は、女性への偏見について多くの問題定義がされており、後世に多くの影響を与えた作品であることからこの作品を研究に選んだという。

初めての学会発表

先行研究では、多くの本を読み、机の上には日々何十冊もの本が並んでいたそうだ。日本中世英語英文学会での発表は、配布するレジュメと発表原稿の事前準備が必要となる。コツコツと先行研究を重ね、何度も原稿を練り直し予行練習したという。審査員からは、「しっかりと先行研究を行った上でそれに基づいて自分の考えを成り立たせている。基本的なことだが、修士で一番大切な段階ができている」と評価を受けた。「難しいことも頑張ればその努力を認めてもらえる。改めて高い目標を持ち、挑戦していくことが大切だと感じました」と語る。

この2年間を振り返り、「研究、講義、教職課程、就職活動など、多くのことをこなすのはとても大変でしたが、中世英文学という深い世界にどっぷりつかれた貴重な時間でした」と微笑んだ。卒業後も仕事の傍ら、趣味として研究を続けていくという松本さん。「日本ではあまり関心を持たれにくい分野のため、中世英文学が現代の文学や芸術においてどのように受け入れられているかを研究し、日本との関わりも発信していくことで、その魅力を知ってほしいです」と今後の展望を語る。中世英文学の世界に魅了された松本さんが多くの文学作品と向き合う日々はこれからも続く。

PROFILE

松本小夜子さん

立命館高等学校(京都府)卒業。竹村はるみ教授研究室に所属。西洋画が好きで、絵を描くのが趣味。英文学の中でもデザイナーとしても著名なウィリアム・モリスのロマンス作品がお気に入り。初めて中世英文学を読む人にはアーサー王伝説の一つである『ガウェイン卿と緑の騎士』がお勧め。

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