開発途上国の教育問題をきっかけに

陸上競技を続けながら、ケニアでの体育指導や学生団体「STROPS」を立ち上げ、カンボジアでのスポーツ支援活動を続けてきた林さん。高校生の頃、難民の子どもたちが十分な教育を受けられない現状を知り、「大学では陸上も頑張るけれど子どもたちのために何かしたい」と思ったことがきっかけだったという。大学2回生の時、国際協力機構(JICA)のセミナーなどに参加し、国際協力について学んでいたが、「考えているだけでは、何も変わらない」と、春休みに2週間ケニアへ渡った。林さんがボランティアに取り組んだ小学校は施設も十分なものではなく、病気や依存症の親、経済的に厳しい事情を抱えた子どもたちも多く通う。建物は床もなく、トタン屋根の教室で、明日の昼食もないような状況を前に「体育を教えるために来たけれど、それは本当に子どもたちのためになるのか、もっと他にするべきことがあるのではないか」そう強く思ったという。しかし、校長先生は「君はもっと楽観主義でいい。自分が楽しいこと、できることをその国のためを思ってやってくれたらいいんだよ」と言ってくれた。帰国後、現地のニーズも踏まえて道具がなくてもできる馬飛びやリレー、体づくり運動などを取り入れた体育の教科書を作り、小学校に贈ったという。ケニアでの経験は、青年海外協力隊という進路を進む後押しとなった。「開発途上国は、可能性を秘めた子どもたちを輝かせるための環境や人材が不足しているのが現状です。私は、今の自分を築いてくれた陸上の経験や知識を還元できる場所で生きていきたい、そのための道として、青年海外協力隊として活動することを決めました」と話す。

学生団体を立ち上げ、仲間と共にカンボジアへ

2018年5月には、国際協力に関心をもつ学生と一緒に、開発途上国でスポーツを通じて子どもたちの可能性を引き出すことを目的とした学生団体「STROPS」を立ち上げた。メンバーがカンボジアで知り合ったガイドの紹介で、カンボジアの小学校で活動を始めたが、体育指導をするにあたって、体育は重要ではないという考えの教員をいかに巻き込み、協力してもらえるかが大きな課題だった。そのため、体育の意義や価値をどうすれば感じてもらえるのか、ミーティングを重ねたという。そして、体づくり運動をベースとした体育の授業やコオーディネーショントレーニング※1プログラムの効果測定など、継続的に実施してきた。今後もSTROPSの活動は他のメンバーたちによって引き継がれていく予定だ。

※1 小学校高学年までがもっとも神経系が発達する時期で、その時期に神経系を鍛えることで、さまざまな運動に対応できるからだづくりを目指したトレーニング

これまでの活動を振り返り、「大変だったというより楽しかったです。子どもたちの楽しそうな姿やSTROPSのメンバーの充実感が溢れた表情を見たとき、時間もかかったし苦労もしたけど、この活動を始めて良かったと心から思いました。嬉しさが大変さを上回ります」と、はつらつとした笑顔で語る姿から、喜びや充実感が伝わってきた。

4回生の夏、青年海外協力隊としてセネガルでアダプテッド・スポーツ(障がい者スポーツ)などの指導や普及活動を行うことが決まった。その後、アダプテッド・スポーツの授業にES※2として参加したり、障がいがある人が通う陸上クラブでの指導、中学校での指導にも取り組み、活動の準備を進めている。「スポーツで貧困問題は解決できないと言われますが、スポーツを通じて生きる活力や前向きな気持ちを引き出していきたいです。自分を成長させてくれた陸上競技でセネガルのスポーツ界に貢献し、多くの人にスポーツの価値を伝えていきたいです」と、意気込む。厳しい陸上の世界で闘いながら、開発途上国の子どもたちのために奮闘してきた彼女の新たな挑戦が始まる。

※2 Educational Supporter:教育サポーターは、授業において、先生や学生のサポートを行う

PROFILE

林 理紗さん

立命館慶祥高等学校(北海道)卒業。3歳から器械体操、中学3年から陸上競技を始めた。上田憲嗣教授の研究室に所属。ケニアの初等教育におけるコンピテンシーを基盤とした体育科教育の実現に向けた今後の課題と展望について研究を行った。趣味は映画鑑賞。


<2019年度主な競技成績>
第59回実業団・学生対抗陸上競技大会400mハードル 優勝(自己ベスト)
2019年度日本陸上競技選手権リレー 4×400m R 優勝

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