「甲賀市の魅力は、豊かな自然とそのなかで暮らしている人々。そして私たちや地域の人が抱く『何か行動を起こしたい』この思いに協力的だったからこそ、30日間をやり遂げられました」そう話すのは、滋賀県でのフィールドワークを通して地方創生に取り組む学生団体「TaBiwa+R」代表の中西優奈さん。2019年11月に開催した「ふるさとSDGs~甲賀でつながる30日~」は、「1カ月間、甲賀市に住み毎日企画を行う」という彼女たちの独創的なアイデアが形になったもの。主体となって本企画に携わった中西さんと、同団体の西野日菜さんは、自分たち学生世代が地方の課題と向き合うことの大切さを語ってくれた。

甲賀市に“関わる”人を増やすために

「ふるさとSDGs~甲賀でつながる30日~」で目指したのは、興味・関心から甲賀市に 関わる「関係人口」を増やすこと。西野さんは、「大学生にとって地方に定住することは難しい。大切なのは『地方に関わろうとする姿勢』です」と、観光客としての「交流人口」や「定住人口」ではなく、たとえ住んでいなくとも、地方創生に取り組む若者を増やしたいという思いがあったという。2019年4月、甲賀市との協力体制をとることで、この企画は本格的に動き出した。開催資金は市の予算や補助金に頼るのではなく、ふるさと納税を使ったクラウドファンディングに挑戦。彼女たちの取り組みに共感し、応援する支援者によって資金が集まり、いよいよ開催までたどり着いた。

地域の課題と向き合い、魅力を発信する

活動拠点となったのは、滋賀県と三重県の県境に位置する甲賀市土山町にある空き家。平日はそこから大学へ通いながら、夜には甲賀市の歴史を学ぶ勉強会や星空観賞会を実施し、地域住人との交流を深めた。15年前に5町が合併した甲賀市には「忍者やお茶、信楽焼など、5地域それぞれが魅力を持っているため、地域を跨げば全く違う体験ができる」と、土日には地域内外の人を対象に信楽焼廃材を使ったフォトフレーム作りや、閉校した学校を活用した体験授業、農業体験など幅広い企画を実施した。県外から集まる観光客や、地元の小学校、同じように地方創生に取り組む他大学の団体などが参加し、甲賀市の魅力を伝えていった。

「私たちがSDGsとして取り組むべき課題が、甲賀市に住むことで自分事になりました」と話す中西さん。3時間に一本しかない地域のコミュニティバスや、街灯のない真っ暗な夜道。交通の不便さだけではなく、進む過疎化や害獣被害など、現場調査と地域住民の声から地方が抱える深い課題を実感していく。「何も知らなければ、便利な都会だけの街になれば良いと思ってしまう。地方が抱えている問題も、受け継いでいくべき尊い歴史も、これからの社会に生きる若者に認知してもらいたい」そう力強く語る。肌で感じた課題や思いを団体のSNSやブログで30日間発信し続けた。

挑戦を続ける団体でありたい

「地方の課題を私たちだけで解決するのは難しいけれど、私たちの世代が関わろうとしなければ、その地域は数十年後、だれもいなくなってしまう」と西野さん。同世代が抱く『何か行動を起こしたい』この思いに呼びかけるためにも、自分たちが行動し続けることが大切であると話してくれた。彼女たちの30日間は、ふるさと納税を活用した地方創生の事例としてメディアの取材を受けるなど、社会からも大きな注目を集めた。「私たち大学生は、社会の課題に対し『どうにかしたい』と思っても、どう動けば良いか分からない人が多いかもしれない。だからこそ、“何かやってみること”が大切なんです」と自信をみせる。TaBiwa+Rは、これからも自分たちの動機を大切に挑戦し続ける団体として、社会の課題と全力で向き合う。

PROFILE

中西優奈さん

立命館宇治高等学校(京都府)卒業。Sustainable Week 実行委員会に所属、TaBiwa+R代表。自然が大好きで、登山や自然散策が趣味。滝をみるために電車を乗り継ぎ、富山県まで一人旅へ行ったことも。団体ではチラシなどの広報物制作も担当。前年度代表の作った上手なデザインを参考に、休日にテレビドラマをみながら制作に勤しむ。

西野日菜さん

関西創価高等学校(大阪府)卒業。Sustainable Week 実行委員会に所属、TaBiwa+R会計担当。活動文書の制作や行政との交渉など事務作業も務める。時間のある日は趣味のバイオリンを弾く。自然と散歩が好きで、大阪府から大学までの通学定期券内で降りたことのない駅で下車し、のんびりと散歩を楽しむことも。

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