新型コロナウイルス感染症の拡大により、医療物資の不足が大きな問題となった。「マスクやフェイスシールド、防護服など個人防護具が不足している事態に危機感を抱きました」と話す植西美侑さん。感染拡大に伴い人々の間には大きな不安が立ち込めるなか、彼女は4月から医療現場最前線へフェイスシールドを届けるボランティア活動に奮闘し続けている。現在に至るまでの活動の記録と、彼女のなかに溢れる思いを語ってくれた。

医療現場へ、命を守るフェイスシールドを


4月3日、大阪大学大学院医学系研究科の中島清一特任教授が、3Dプリンターで作成するフレームと身近にあるクリアファイルを用いた「フルフェイスシールド」を開発、フレーム部分のデータを無料公開した。偶然、その記事を目にした植西さんは「これなら私にもできる。少しでも何か手助けになりたい」と、すぐに行動を起こした。3Dプリンターで作成したフレームを近隣の医療機関や施設に届ける活動を行うSNS上のボランティアグループに参加し、無料公開されたデータをもとに、自宅の家庭用3Dプリンターで作成したフェイスシールドを地域の市民病院や社会福祉協議会、学校施設などへ届ける活動をスタートした。

ボランティアグループでは、随時オンラインで備蓄状況の情報交換がなされ、より良いフェイスシールドを作るための提案も活発に行われた。彼女は、シールド部分の透明度を上げるため「ラミネートとOPP袋を接着する方法」を提案したことがきっかけで、中島特任教授が立ち上げた「フェイスシールドを大量生産、無償配布するクラウドファンディングプロジェクト」のメンバーに抜擢された。

※3DプリンターでPLA樹脂(ポリ乳酸)を材料にフレーム部分を出力。高透明なA4クリアファイルをシールド部分に取りつけてフルフェイスシールドとして使用する。

私たちの“感謝の気持ち”を医療現場に届けたい

クラウドファンディングプロジェクトでは、約550ある感染症指定医療機関へ電話による聞き取り調査や活動報告書の作成業務などを担当した。聞き取り調査を通して伝わってきたのは、患者や医療従事者が抱える「不安の声」だったという。「どの医療機関も混乱しており、さらに中小規模の病院では政府からの供給が遅れているのが現状でした」と振り返る。


自宅で作ったフェイスシールドを届けるボランティア活動と、クラウドファンディングプロジェクトの活動で忙しい日々が続いたが「フェイスシールドを直接、届けた先ではコロナ禍であるにも拘わらず、市民ボランティアが一丸となって組み立て作業に協力してくれました」と、それぞれの場所で協力しあう人たちの姿に感動が込み上げたという。彼女が抱く『医療関係者へ感謝を伝えたい』という思いは、今回、同じ思いを持つ多くの人たちが行動を起こし、協力しあうことで形にすることができた。「このフェイスシールドは、コロナ禍で奮闘する人たちへ、私たちからの感謝の気持ちです」と力強く語った。

「新型コロナウイルス感染拡大の状況は予断を許しません。一時は多くの医療現場でフェイスシールドなど個人防護具の備蓄が不足し、供給体制の不備が露呈しました。それらを教訓に、次へ備える必要があります」と、現在も自宅の3Dプリンターを稼働し続け、フェイスシールドを届ける活動を行っている。「コロナ禍で多くのボランティア活動が行われ、そこにはたくさんの人の協力や絆がありました。その事実を、今後もみんなの心に留めておいてほしい」と笑顔をみせる彼女の思いは、きっと新たな日常のなかでこれからも繋がれていくだろう。

PROFILE

植西美侑さん

立命館高等学校(京都府)卒業。立命館大学書道部に所属。3歳から書道に励み、これまでに全国大会で文部科学大臣賞を三度受賞。クラウドファンディングプロジェクトではキャッチフレーズ『あなたを守るは私を守る』の筆書きも担当した。食べることが好きで、最近は料理にも挑戦中。

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