『世界中のあなたへ』というタイトルに、温もりのある挿絵が描かれた一冊の絵本。読み進めていくページには、「頑張り屋なあなたへ」「悩み事があるあなたへ」「毎日が幸せなあなたへ」――“頑張っている人にエールを送る”というテーマで、さまざまな「あなた」に向けたメッセージが綴られている。2020年1月に出版されたこの絵本は、小さな頃から絵本作家を夢見た黒田優里香さんが、長年の夢を形にした作品だ。彼女は2015年に立命館大学文学部を卒業後、大阪府の公立中学校で4年間、国語教員として勤めた。教員時代、生徒たちに向けて手作りした絵本をもとに、今度は「人生の主人公である世界中のあなたへ」向けて書き上げた。

大好きな絵本に思いを込めて

小さな頃から絵本好きだった彼女は、教員として勤めている間も趣味で絵本を手作りすることがあったという。『世界中のあなたへ』は、彼女が初めて中学3年生の担任を持った際「卒業して新しい場所に旅立っていく生徒たちへ、何かエールを送りたい」と、プレゼントした手作りの絵本がもとになっている。「絵本を送った生徒たちから『落ち込んだ時、絵本を読むと元気が出た』『黒田先生の絵本をもっとたくさん人に読んでもらえたらいいのに』といった言葉に背中を押され、大学院に通う間に“絵本を出版する”という長年の夢に挑戦しようと思いました」と教えてくれた。


「『世界中のあなたへ』にも掲載している『未来はすべて自分次第で無限に広がる』『涙の数だけ成長がある』などの言葉は、これから長い人生を歩む生徒たちに向けて、当時伝えたメッセージです。これらは私自身が今までの人生で経験し、大切にしてきた思いでもあります」と語る。「世界中で頑張っている人を支えられるような絵本をつくろう」と、自身が長年、大切にしてきた言葉やオリジナルのイラストを一冊に詰め込んだという。読んだ人が自分と向き合い、人生を見つめるきっかけとなるような内容となっている。

頑張る人の背中を押す存在でありたい

『世界中のあなたへ』を出版後の2020年2月、休業中であった勤務校や、立命館大学図書館や立命館の附属校、地元宇治市の中学校へ絵本を寄贈すると、絵本を道徳の授業などで活用されることがあった。次第に「この絵本を小学生向けに作ってほしい」という声が寄せられるようになり、現在は小学生向けの『世界中のあなたへ』を制作している。文章やイラストを新しく書き進める一方、一冊の絵本で小学1~6年生の幅広い年代が楽しめる内容にする作業には四苦八苦。「小学生が理解できるよう、文章や単語をかみ砕き優しい表現に変更したり、イラストの量を増やしたりしています」と、今までとの視点を変えて試行錯誤を重ねている。今年度中に京都・滋賀・大阪の教育機関への寄贈を目指しており「幅広い小学校で、たくさんの児童のために使ってもらえたら嬉しい」と話してくれた。

「絵本は子どもたちが楽しんで読むものだから、自分でつくる物語は楽しい気持ちで終わることを意識しています。今までも生徒たちには『ダメなことがあっても次に生かそう、前向きにいこう』と伝えてきましたが、これは自分のなかでも大切にしている思いでもあります。読んだ人が『ほっこりしたな』『頑張ろう』と、前向きになれる絵本をつくりたいです」と優しい笑顔をみせた。

2021年4月から教員に復帰した後は、勤務校で自身の絵本を活用して授業を行うことを楽しみにしているという。「今後も日々のなかで感じたこと、見つけたこと、伝えたい思いを、機会を見つけては絵本にし、少しずつでも絵本作家としての活動を続けていきたいです。絵本を通して、頑張っている人を陰から支えられるような、そんな存在になることが私の目標です」。彼女は今後も大好きな絵本と向き合いながら、人の心を動かす活動を続けていく。

PROFILE

黒田優里香さん

立命館大学文学部卒業。学部生の頃は「絵本サークル たまごのきみ☆」に所属していた。大阪府の公立中学校に教員として4年間勤務し、現在は専修免許状取得のため休業して文学研究科に通う。日本文学を専修し、宮澤賢治の独特の世界観でできた童話に魅了され、修士論文では童話集『注文の多い料理店』をテーマに研究を進める。唯一、宮澤賢治が生前に出版した童話集で、そこに込められた思いを探る。最近の休日は祖母直伝の料理に挑戦中。

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