サッカー選手として、プロの世界で大きな一歩を踏み出す
夢が実現した瞬間
2020年2月16日、JリーグYBCルヴァンカップに、サンフレッチェ広島のユニフォーム姿でプレーする藤井さんの姿があった。プロサッカー選手として新たなスタートを切ったデビュー戦を「観客も多く、少し雰囲気にのまれましたが、興奮したのを覚えています。特別な瞬間でした」と振り返った。藤井さんは、現在、サンフレッチェ広島の特別指定選手としてJ1のリーグ戦に出場しており、大学でも体育会サッカー部でプレーを続けている。2021年シーズンからはサンフレッチェ広島に正式に入団する予定だ。
プロサッカー選手と大学の体育会サッカー選手の二つの顔を持つ藤井さん。一見、順風満帆なサッカー人生を歩んできたように見える彼だが、その裏には数々の葛藤と努力があった。中学校時代に所属していたクラブチームでは、試合にあまり出場できず、進学校の高校では、思う存分サッカーに打ち込む時間が持てずに苦しんだ。それでも彼がサッカーを続けてきたのは、「もっとうまくなって、自分を忘れているだろう過去のチームメイトを見返したい」という強い気持ちがあったからだ。プロを意識するようになったのは、大学2回生の頃。「関西選抜のメンバーに選出され、優秀な選手たちとプレーし、自分の武器であるスピードが、より上のレベルでも通用するのではないか」と自信を持てたことが転機となった。「自分はこうなりたい」と常に自分の目標を思い描き、諦めずに行動してきたことが夢の実現につながった。「公立高校出身で、全国大会の出場経験がなくても、努力次第で大学からプロになれることを証明できたと思います」。逆境をバネに努力を重ねてきた彼の言葉は力強かった。
入団内定後、2020年2月からのキャンプに参加した当初は、これまで経験したことのないプレースピードについていくことができず、苦戦を強いられた。たった1つのミスでも命取りになってしまうレベルの高さを痛感したという。「歴史あるチームの代表として、エンブレムを背負ってプレーするということは、1つのミスで周囲の目も評価も変わってしまいます」と、プロの世界の厳しさを語る。これまで通算15試合に出場するなかで、「緊張やミスを恐れることよりも自分をどう表現するか。どうすればより成長し、結果を残せるか」という点に集中したことで、プレーも変わってきたという。
プロチームと大学チームの両立
新型コロナウイルス感染症の影響による活動自粛中は、思うようにサッカーができないことへの苦しさもあったが、以前から自主的に考えて練習に取り組んできた経験が生きたという。サンフレッチェ広島の選手として、自分に必要なものを考え、トレーニングを積むことができたと話す。広島で過ごす間も、大学チームとのオンラインミーティングに参加し、交流を欠かさなかった。9月に大学チームへ戻った当初は、「当たり前にできなければいけない。こんなミスはしてはだめだ」という気負いもあったが、「学生だからこそもっとトライできる」と気持ちを切り替えた。持ち味のスピードを生かしたプレーを取り戻し、気負うこともなくなった。シーズン中、広島と京都を行き来する中で、プロサッカー選手と大学の体育会サッカー選手を両立することの難しさも感じているという。ただ、「サッカーのやり方や考え方が違うそれぞれのチームに適応するために、もっと成長していきたい。どちらのチームでも、自分らしさを出すことを大事にしたいです」と前を向く。
さらなる目標を見据えて
サンフレッチェ広島でプレーし、気持ちの切り替えができるようになったことに手ごたえを感じる一方で、1対1になった際の勝負強さや守備にさらに磨きをかけたいと先を見据える。「サンフレッチェ広島で出場するチャンスがあれば、スピードを生かしたプレーで結果を残し、チームに必要な存在になりたいです。来シーズンは、スタメンを獲得し、10得点にからむことが今の目標。そして、いつかは人に勇気を与え、誰もが憧れるような選手になりたいです」と思いを語ってくれた。これからさらなる努力を重ね、新たな目標に向かって突き進んでいく。
PROFILE
藤井智也さん
岐阜県立長良高等学校卒業。大学では出口雅久教授のゼミで民事訴訟法について研究。サッカーは4歳から始め、50mのタイムは5秒9。スピードを生かしたプレーが最大の武器。サンフレッチェ広島では、今シーズン(11月現在)15試合に出場し、8月には先発で出場。