高さ83.8㎝のハードル10台が置かれたレーンで100mのタイムを競う100mH。2019年、「天皇賜盃第88回日本学生陸上競技対校選手権大会」(日本インカレ)で学生日本一に輝いた功績を持つ田中さん。2020年10月に行われた「第97回関西学生陸上競技対校選手権大会」(関西インカレ)では、圧倒的な強さを見せ、4連覇を成し遂げた。学生トップアスリートである彼女が、学生最後のシーズンを振り返る。

コロナ禍での戦い

4年間で最も大変なシーズンだったという今シーズン。新型コロナウイルス感染症の拡大による大学での活動の自粛や大会の中止、延期により、見通しが立てにくくなり、困惑することも少なくなかったという。「大会が行われるのか、大会で力を発揮できるのか」、卒業後も競技を続けることを決めていた彼女にとって、大会の結果が今後の進路を大きく左右する。4月、活動自粛になってからは、河川敷をひたすら走り、自宅で筋力トレーニングをする毎日が続いた。また、主将として少しでも早く活動再開できるよう大学側とも連絡を取り続けた。6月末、部活動が再開した時には、隣で競うチームメイトの存在や休憩時間に飛び交う楽しそうな声など、今まで当たり前に感じていた一つ一つに幸せを感じたという。「今与えてもらっている環境で精一杯の努力をしよう」と強く思ったと振り返る。

3回生から進路を意識したという田中さん。「陸上をやめることは、想像がつかなかったんです」と、陸上を続けることを決めた理由を話すが、今年の7月頃は、「こんな苦しい思いをしてまで陸上を続けたかったのだろうか」と深く悩んだこともあったという。「同期の中で卒業後も陸上の道に進むのは自分だけ。周囲が次々と就職先を決める中、進路は未定のままだった。それでも毎日走りひたすら練習を重ねる日々。本当にこれで大丈夫なのか」大きな不安を抱えながらも黙々と練習を続けた。

10月に開催された大一番「第104回陸上競技選手権大会」では、準決勝で良いスタートをきったものの、スピードが出すぎて1台目のハードルに前足があたるハプニングもあった。それでも、一歩一歩を刻めばぶつからないと冷静に分析し、決勝では走り方を考えて臨み、4位の結果で終えることができた。「無事に走り切れてよかったと思った半面、満足できる走りができなかったので、改善点を次につなげようと考えました」と、常に次の大会を見据え、改善を繰り返してきたことが彼女の成長につながってきた。関西インカレでの4連覇達成についても大きな気負いはなく、「毎年頑張ろう、と思っていたら4連覇でした。今シーズンは例年とは異なるスケジュールだったこともあり、精神的にもタフになったシーズンだったので、少しほっとしました」と苦しいシーズンを乗り越え、安堵の気持ちが大きかったと振り返る。

新たなステージへ

卒業後、実業団で陸上を続けていくことが決まった。「陸上が仕事になり、結果を常に求められ続けることへの怖さはありますが、その道を選んだのは自分自身。自分がどこまでできるのか、試していきたいです」と、意気込みを語る。陸上という勝負の世界に身を置きながらも、「勝負だけがすべてではない」ことを立命館大学で教わってきたという。「陸上を楽しむという気持ちは忘れずに、責任との折り合いをつけながら頑張っていきたいです」と、明るい笑顔を見せた。春には、新たな陸上人生をスタートさせる彼女から今後も目が離せない。

PROFILE

田中佑美さん

関西大学第一高等学校(大阪府)卒業。中学から陸上を始め、高校ではインターハイを連覇。2019年、「天皇賜盃第88 回日本学生陸上競技対校選手権大会」で学生日本一に輝く。100mHの自己ベストは13.18。2020年度、女子陸上競技部の主将を務める。クラシックバレエの経験から、バネがあり、新しい動きにもすぐに対応できる適応力が強み。趣味の宝塚歌劇の鑑賞とお菓子作りでリフレッシュする。毎日自炊をして食事管理をしている。

<2020年の主な競技成績>
7月 第75回京都陸上競技選手権大会 2位
8月 セイコーゴールデングランプリ陸上2020東京 4位
9月 天皇賜盃第89 回日本学生陸上競技対校選手権大会 2位
10月 第104回日本陸上競技選手権大会 4位
10月 第97回関西学生陸上競技対校選手権大会 1位

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