陸上競技部で唯一の「競歩」競技者、石田昴さん。2020年8月、「第 97 回関西学生陸上競技対校選手権大会(関西インカレ)」で悲願の優勝に輝いた。学生トップレベルで活躍する彼は、2月の「第104回日本陸上競技選手権大会(日本選手権)」では、東京オリンピック内定者や日本中から強豪選手が集うなか、20kmWで自己ベストを更新して6位に入賞。この結果に「やっと、本当のトップ選手と戦っていけるスタートラインに立てた」とさらなる高みを見据えた。競技者としてのこれまでの軌跡と、彼が抱く今後の目標を聞いた。

トップ選手の背中を追い続ける

競歩には、順位やタイムだけでなく、歩形(フォーム)の乱れによる反則といった「ルール」との厳しい闘いがある。「私たち競歩選手は、複雑で、厳格なルールのなかで競技をしています。失格による順位変動や、審判の判定結果状況によるペース配分との駆け引きなど、とても“奥が深い”競技なのです」と、その魅力を語った。現在、大会を重ねるごとに自己ベストを更新するほど成長著しいが、これまで順風満帆な競技人生だったわけではなかった。「駅伝から競歩へ転向したことが大きな挫折でした」と、これまでに歩んできた道のりは、苦しく、険しいものだったという

「高校駅伝」に憧れ、高校は富山県内の駅伝強豪校に入学し、本格的に陸上競技を始めた。しかし2年生の夏、3カ月に及ぶ大きな怪我を負ったこともあり、監督から「競歩への転向」を提案された。「高校駅伝で走るために部活をやってきたので、正直、かなり戸惑いがありました」と振り返る。部内は全国上位の競歩選手が所属するほどレベルの高い環境で、彼らの後ろを追う立場として練習を始めることになった。

日々の努力が実り、北信越大会や国体など数々の大会に出場し、着実に成果を重ねた。卒業後も競歩を続ける選手が少ないなか、立命館大学でも現役継続を決意。部内に同じ競歩選手はおらず、専門的な指導者もいない環境で、自ら練習メニューを組み立て、日々の研鑽を積んできた。「1年目はなかなか結果に繋がらず、『自分のやり方は正しいのか』を疑い、練習を続けることが本当に苦しかった」という。1回生の終わり頃、大会で好成績を収めたことを機に、再び競技人生に光が差し、5000mWでは学生歴代9位に名を刻むなど、数々の大会で上位を争う選手に成長した。入学時からの目標だった関西インカレでの優勝を決めた際には、「実力通り、勝てて良かったと安心した一方で、当時の調子からすれば『もっと早いタイムを出せた』と直前の調整ミスを悔やみました」と、結果に甘んじることなく冷静に次のレースを見据えていた。

競歩は大学生以上の大会が少ないため、実業団でも本格的に競技に専念できる選手は一握り。高いレベルに進むほど、厳しく過酷な現実がある。「日本選手は国際的にもレベルが高く、世界のトップ選手として名を連ねています。彼らのような本当のトップ層との間にはまだまだ実力差がありますが、卒業後も実業団で競技を続け、世界で活躍できるような選手になりたい」。力強く、今後の目標を語った。

“感謝を込めて”学生最後の一年を

そんな彼を支えるのは、部内の長距離ブロックの仲間たち。「競歩は、絶対に誰かのサポートがなければ成り立たない。試合中はマネージャーに給水してもらったり、日常の練習でもコーチや仲間に励ましの言葉をかけてもらったり。そして両親の支援など、周囲の支えがあるからこそ、競技が続けられている。そんな存在に、“結果で返すしかない”と常日頃から意識しています」と強い信念を言葉にした。

3月21日の「第45回全日本競歩能美大会」では、8月に行われる世界大会の「FISUワールドユニバーシティゲームズ(旧名称:ユニバーシアード競技大会)代表選考会」が併催される。まずは目の前の戦いに尽力し、日本代表の座を目指す。「大学でも、これほど高いレベルで戦えるとは思っていませんでした。だけど頑張れば頑張るほど、結果に結びつく度に“自分はもっとやれるんじゃないか”という気持ちが強くなる。今年の日本選手権ではトップ選手の後ろを追うことで精一杯だったが、1年後はその選手たちと真っ向から勝負し、駆け引きができる選手になりたい」。さらなる高みを目指し、彼の大学陸上生活、最後の1年が幕を開ける。

PROFILE

石田 昴さん

中学生時はサッカーに励みつつ、3年連続で駅伝の学内選抜に選ばれる。中学3年生で北信越大会にも出場し「本格的に駅伝をやりたい」という思いを持つ。競歩の自己ベストは、トラック種目5000mW「19'19"22」・10000mW「40'20"41」、ロード種目20kmW「1°20'39」。他大学の競歩選手とも交流が深く、合同練習や合宿にも励む。最近の休日はゲームを楽しんでおり、パズルゲーム「マインスイーパ」と音楽ゲーム「アイドルマスターミリオンライブ! シアターデイズ」がお気に入り。


<2019年度の主な競技成績>
2月 第103回日本陸上競技選手権大会 男子・女子20km競歩 11位
3月 第43回全日本競歩能美大会(20kmW) 8位
3月 第14回日本学生20km競歩選手権大会 4位


<2020年度の主な競技成績>
9月 第89回日本学生陸上競技対校選手権大会(10000mW) 5位
10月 第97回関西学生陸上競技対校選手権大会(10000mW) 優勝
1月 第69回元旦競歩大会 兼 第83回東京陸上競技選手権競歩大会(20kmW) 2位
2月 第104回日本陸上競技選手権大会・20km競歩 6位

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