「フィリピンでは、わずか5歳くらいの子どもたちがゴミ山で働いていました。その姿を見て『こんな世界があるんだ』と憤りと悲しみが込み上げてきました」。樋口陽香さんは、高校2年生の時、海外で目にした過酷な現実に驚愕したという。2020年8月、彼女が立ち上げたのは、“食”を通して子どもたちに社会問題を伝え、食品ロス削減に取り組む学生団体「BohNo」。「貧富の差に関係なく、子どもたちに“知る機会”を与えたい」と語る彼女に、団体の活動とそこに込めた思いを聞いた。

価値観を変えた世界での学び

高校生の頃から貧困問題や教育支援に興味を抱いていた彼女は、大学入学後も世界の子どもの教育を学ぶため、ラオスやタイなど海外を訪れた。「今までに私は、授業や大学のプログラムを活用して世界に足を運んできました。自分の目で直接見て、感じた経験は、私の価値観を大きく変えていきました。しかし、大学2回生の頃、ふと疑問に思ったのです。『日本の子どもたちは、“世界を知る機会”が与えられているのだろうか?』と。何らかの事情で満足に教育を受けられない子どもたちもいるなかで、私自身の経験を多くの子どもたちに伝えたいと思いました」と語る。

さらに彼女が日々関心を寄せていたのが日本の食品ロス問題。食糧不足や貧困で苦しむ国を見てきたからこそ、彼女が真摯に向き合う社会課題の一つであった。2020年1月、食品ロス削減に貢献しながら、子どもたちが世界を学ぶためのアイディアをまとめ上げ、「関西SDGsユース・アイデアコンテスト」で提案。全285案から7作品のみに送られる企業賞に選ばれた。彼女のアイディアを形にするため誕生した「BohNo」は、大阪府の企業やNPO法人、淀川区社会福祉協議会などの支援のもとに始動した。

“食”で世界を学ぶ「BohNo Cafe」

2カ月に一度、開催するワークショップ「BohNo Cafe」では、企画ごとに一つの国をテーマに掲げ、その国の家庭料理を取り入れたお弁当を作り、子ども食堂などの子どもたちに提供する。子どもたちはお弁当を通じてその国の食文化や習慣、抱えている問題点を学ぶ。「生活に欠かせない“食”。各国の美味しい家庭料理を糸口にすれば、子どもたちも楽しみながら世界の社会問題が学べる」と考えた。お弁当には規格外の野菜や新型コロナウイルス禍で行き場を失った食材を活用している。「お店で商品として並ぶ野菜も、規格外で捨てられる野菜も、美味しさは同じ。子どもたちにも食べることで分かってもらえるはずで、『食べることが食品ロス削減につながる』ことを伝えたい」と強い思いを語った。

※NPO法人や地域住民が主体となり、地域の子どもたちや保護者を対象に無料または低価格で食事を提供するコミュニティの場。

「フィリピン」がテーマの第1回目は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で延期の末、2021年2月にオンラインで開催することに。全国から20人の子どもたちが参加し、フィリピンの貧困問題や日本の食品ロス問題の学びを深めた。4月に開催した第2回目では「韓国」をテーマに対面での実施が実現し、「子どもたちに体験しながら学んでほしい」という団体の願いがようやく形になった。「参加した子どもたちからは『訳あり野菜が可哀想だと思った』などの感想があり、少しでも社会の価値観を変えるきっかけになれば嬉しい」と喜びを語った。現在、第3回目を6月に開催すべく、「フランス」をテーマに準備を進める。「BohNo Cafe」全7回に参加すれば、世界一周ができるよう企画している。

子どもたちに多くのチャンスをつくりたい

「自分自身の目で見て、価値観が変わった経験や、その時に感じた思いは、今後の原動力になると思っています。子どもたちがさまざまな世界を知ることで、何か行動を起こすきっかけとなり、それぞれの進路で役立ててほしい」と、優しい笑顔をみせる。そんな彼女の大きな目標は「機会の不平等をなくす」こと。「世界では、働いて家族を助けるために満足な教育を受けられない子どもたちがいることを知りました。生まれた国や環境が異なるだけで、機会が与えられないことを諦めず、子どもたちに少しでも多くのチャンスをつくりたい」。熱い思いで活動する彼女のこれからに注目したい。

PROFILE

樋口陽香さん

立命館中学校・高等学校(京都府)卒業。「BohNo」立ち上げ後は、メンバーと共に大阪府の子ども食堂や滋賀県の農家を訪問し、日本の教育支援や食品ロスの学びを深めた。幼少期からピアノに励み、2回生時には「ショパン国際ピアノコンクールinASIA」でアジア2位を受賞。海外旅行が趣味で、これまでにフィンランドや台湾、シンガポールやオーストラリアを旅行した。「BohNo Cafe」では、規格外野菜やコロナ禍で捨てられる予定だった果物などを販売するフードロス専門店を併催している。

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