「『やっとお客さんの前でできる!』その思いで胸がいっぱいでした。」2021年2月21日、「第18回全日本学生落語選手権『策伝大賞』」(以下、策伝大賞)において、第3位にあたる「岐阜市長賞」を受賞した、落語研究会の立命亭鯛團(だいまる)こと芝田純平さん。「学生落語の甲子園」とも評される大舞台で実績を残すまでの道のりを、晴れやかな笑顔で語ってくれた。

落語との出会い

小さい頃から大のお笑い好きで、小学生のときは「お笑い係」として、クラスメイトの前でコントを披露していた。中学3年生のとき、偶然見た有名落語家の追悼番組で、落語に心を奪われた。「落語家さんたちの演目中の所作に美しさを感じ、引き込まれてしまいました」。以来、落語の番組を熱心に視聴するようになり、色々な演目を聴き始めた。「落語は同じ話を何回聴いても飽きないんです。同じ演者さんでも、演じる日によって全く違う良さがにじみ出てくる。そこがとても面白いんです」。大学入学後、新歓ブースで落語研究会に出会い、入会を決意。「新歓での公演を見て、『学生でもこんなにすごい人がいるのか!』と感動しました。」と当時を振り返る。

落語研究会の活動では、演目の良さを最大限に引き出すことにこだわった。「どれだけ地味な演目だとしても、その演目ならではの良さがあります。その良さをしっかりと掴めるように、何度も演目と向き合います」。また、演じる際の「所作」も大事にした。「ある落語家さんが『自分が想像できないことは他人も想像できない』と仰っていたんです。その言葉に影響を受けて、所作からも聴く人がきちんとイメージを持てるかを意識するようになりました」。そのような点を意識して日々の活動に打ち込むことで、落語への理解を深めていった。

もがき苦しんだコロナ禍

2020年、落語研究会の会長に就任し、4月の新歓に向けてメンバーと活動を盛り上げようとしていた矢先、新型コロナウイルスの影響で活動自粛が決まり、新歓の対面ブースも中止となった。代わりに開催されたオンラインブースで、何とか新入生の勧誘はできたが、活動をどのように続けていくかは全くの手探り状態だった。「入会してくれた新入生に活動を続けてもらうことが本当に大変でした。厳しさだけでは続けてもらえず、楽しさだけでは緩い集まりになってしまいます。そのバランスをとるのが難しかったです」と振り返る。予定されていた公演も中止となり、思うように活動ができない状況が続いた。しかしそうした状況でも、やれることをやろうと決め、練習体制を変えたり、大喜利を取り入れた練習をオンラインで行ったりと、様々な工夫を凝らした。また、落語研究会の活動以外でも、自宅で何度も自分の演目を録画しては見返し、落語に向き合い続けた。

1年ぶりの公演を迎えて

学生にとって特別な大会である「策伝大賞」の開催も危ぶまれたが、無事開催されることになった。しかし、コロナ禍での大会運営は困難を極め、12月に行われた予選のビデオ審査の通過連絡があったのは2カ月後。大会開催まで残り2週間だった。大学に決勝戦の出場を申し出て、許可が下りたのは5日前。「バタバタの毎日でした。大会に向けて気持ちを整え、しっかりと準備ができたというよりは、家で一人できることをやるので精一杯でした」。しかし、そうしたなかでも応援してくれる人々の存在が支えとなった。部員だけではなく、親類や卒業生から多くの応援メッセージが届き、同期のメンバーからは、サプライズで会場までの新幹線の往復チケットのプレゼントがあった。「応援してくれる仲間がいることで、『一人ではないんだ』という実感を持って舞台に臨むことができました」。大会当日、人前での公演は約1年ぶりだったが緊張はなかった。「お客さんの前で公演できることが本当に嬉しかったんです。1年間公演できず、悔しい思いを抱えていましたが、演じ終わった後はとても達成感がありました」。岐阜市長賞に選出され、審査員の桂文枝師匠からも賛辞の言葉があり、顔がほころんだという。

ありのままを認め、尊重する

落語研究会を引退し、活動に一区切りついた現在、改めて落語の魅力を語ってくれた芝田さん。「落語に出てくる登場人物は、わりとストレートな物言いをするんです。一見乱暴な印象を受けることもありますが、それは真っ直ぐにお互いと向き合っていることの表れなんです。お互いの個性をしっかり認め、相手を尊重する気持ちがあるからこそ、変な遠慮がない。そうしたやり取りのなかに、人間のありのままが表現されていると感じます。落語の世界で描かれている人間関係のような“ありのままの相手の個性を認め、真っ直ぐに人と向き合うこと”って、とてもいいなと思うんです」。落語とひたむきに向き合ってきた芝田さんの今後の活躍が楽しみだ。

PROFILE

芝田純平さん

京都府立洛西高等学校卒業。日本史研究学域日本史学専攻に所属。現在、上方落語の研究に打ち込んでおり、「上方落語のことは芝田に聞けばわかる」と言われるような人物を目指している。

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