立命館大学衣笠キャンパス、京都衣笠体育館の南西に位置する「きぬがさ農園」。2020年5月、荒れ果てた土地を開拓し誕生したこの農園には、季節の野菜や草花が育ち、日々学生や教職員とともに、農園作業を楽しむ地域住民の姿があった。学生団体「きぬがさ農園Kreis」代表の阿部桃子さんは「ここには、何十年も前からこの地域に住み続け、大学を見守ってきた地域の人たちが訪れます。『きぬがさ農園があって良かった』という言葉をもらう度、嬉しさでいっぱいになります」と笑顔をみせた。地域と大学をつなぐ農園を実現するため、日々奮闘する団体の姿を語ってくれた。

「キャンパスの落ち葉がもったいない」

「きぬがさ農園」誕生のきっかけは、彼女の一つの行動だった。1回生の秋、キャンパスで行われていた落ち葉の清掃作業が目に留まった。「『これだけ大量の落ち葉を、ただ“ごみとして”捨てるなんてもったいない』と、何気なく思っただけなのですが、この思いを大学に伝えたくて居ても立ってもいられず、すぐに相談に向かいました」と語る。 落ち葉の処分は大学にとっても大きな課題。「簡易堆肥器で腐葉土にする」アイディアは大学内でも議論されていたが、簡易堆肥器を設置する場所の確保や堆肥の用途、運営負担などの問題があり具体化が困難な状況にあった。そんななか、彼女の行動がこのプロジェクトに拍車をかける。キャンパス内での場所の確保や腐葉土を活用する目途が立ち、きぬがさ農園の開拓事業と簡易堆肥器の設置が本格的にスタート。また、農園の開拓・整備などの運営主体として学生団体「きぬがさ農園Kreis」が立ち上がった。

地域交流とSDGsを実現する

農業に精通する地域住民から畑の基礎知識を教わり、近隣の小学生と一緒に腐葉土づくりを行い、地域住民や立命館みらい保育園の園児たちと育てた野菜を収穫する。この一年間、地域とのつながりの輪を常に意識し、共に活動を続けてきた。毎週金曜日、団体として活動する際には、学生と一緒に汗を流す地域住民の姿がそこにはある。「金曜日でなくとも、農園に学生の姿を見つけたら顔を出してくれる人がたくさんいます。日々顔を合わせ、畑仕事の合間に他愛もない会話を交わす。そういったことを少しずつ重ねることでお互いの信頼関係を築いてきました。今では大学に対する些細な思いまで気軽に話してくれ、私たちが地域と大学をつなぐ架け橋になりたいと考えています」と笑顔をみせた。

「私が『落ち葉がもったいない』と伝えに行った日から、衣笠キャンパスでは落ち葉を捨てずに貯めるよう働きかけてくれ、2020年2月には東側広場で落ち葉の堆肥化をスタートし、夏には腐葉土の第一弾ができあがりました」と振り返る。昨年度は約1万3,000ℓ分もの落ち葉を腐葉土に変え、きぬがさ農園に還元した。オクラやカボチャ、小かぶなど、腐葉土を使って無農薬で育った栄養満点の野菜は、立命館生協の食堂で提供する期間限定メニューにも採用され、これまですべてが完売。約2,100食が売れ、新型コロナウイルス禍で落ち込む生協の売上にも貢献した。

「“Kreis(クライス)”は、ドイツ語で『つながり、縁、輪』という意味です。地域、大学、学生がつながること、キャンパス内の資源を循環させること。それを実現していくのが私たちの役目です」と、団体のビジョンを語る。活動2年目を迎えた2021年4月、衣笠キャンパスの緑化を進めるべく、農園で育てた草花をキャンパス内に移植させるなど活動のすそ野を広げている。

きぬがさ農園でつながる信頼関係

少なくとも週5日は農園に通い、日々細やかに成長する野菜に心を配る阿部さん。「地域と共存しながら農園を運営し、これからも野菜をきちんと育て続けること。それには、農園に対する真摯な姿勢が不可欠です。日々の地道な作業や、周囲への細かい気配りを忘れず、地域との信頼関係を築いていくことが、これからも続く私たちの使命です」と話してくれた。この先も彼女は、地域と大学をつなぐ農園で笑顔の輪を育て続ける。

PROFILE

阿部桃子さん

趣味はお菓子作りや美術館巡り。特にピエール=オーギュスト・ルノワールなどの印象派の画家が好きで、ヨーロッパ旅行に行った時は、終日、美術鑑賞を楽しんだことも。最近の楽しみは、何よりもきぬがさ農園で学生や地域の人たちと交流すること。今年度からベランダで地域住民から分けてもらったベビーリーフやミント、ローズマリー、オレガノを育てている。

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