「ボールを止めることなくプレーするバレーボールでは、一瞬の判断が試合を決めます。私たちはその一瞬のために準備する。一人では勝つことも負けることもできないが、だからこそ、仲間と助け合って勝利を目指す。そこに大きな魅力があります」そう語るのは、男子バレーボール部主将の平尾歩夢さん。2021年6月、「2021年度セイバーオードリンCUP 関西大学バレーボール男子トーナメント」では、春季大会においてチーム14年ぶりとなる関西王者の座を掴んだ。彼が日々チームと向き合い、快挙を遂げるまでの軌跡を辿った。

チームを鼓舞する“声”を出す

守備の要となるポジション「リベロ」を守り、コートの後衛でチームの統率やゲームメイクを行う平尾さん。彼の持ち味は、チーム全体を盛り上げる“掛け声”にある。「私は身長が低かったため、ムードメーカーとして声を出し、『とにかくチームを支える存在になりたい』と思っていました。チームが劣勢であるときほど声を出し、仲間と立ち上がってきました」と語る。小学2年生から15年間バレーボールに打ち込んできた彼は、立命館大学でも1回生の頃から試合で活躍し、3回生となる2020年の秋には主将に就任し、チームの要として戦ってきた。

しかし新型コロナウイルス禍によって試合や大会は延期・中止が繰り返された。「目指すべき試合がない状況で、『何を目標にすればいいのか分からない』『練習をする必要があるのだろうか』と疑念を抱いたチームメイトもいたと思います。チームのモチベーションを保つ難しさに直面し、毎日悩み苦しみました」と苦難を振り返る。

「みんなにとって、バレーボールが楽しくなくなってしまっては意味がありません。いつ開催されるか分からない試合に一喜一憂するのではなく、このような状況だからこそ、何よりも大切な“バレーボールを楽しむこと”をチームの指針に掲げ、練習に取り組みました」。辛い心情を表に出さず、主将として誰よりも練習に打ち込み、チームを引っ張る存在であり続けた。チームの課題を分析し、サーブ効果率を高める基礎練習や、彼を中心とした守備力強化の練習を重ね、出口の見えない状況下、チーム全体の結束と地道な努力で苦難を乗り越えた。

高まる思いをぶつけ、戦い抜く

2021年6月、「2021年度関西大学バレーボール連盟春季リーグ戦」が中止となり、急遽代替大会でトーナメント戦の開催が決定。練習で培った力を発揮し、準決勝は昨年度春季リーグ優勝校の近畿大学をストレートで下した。そして天理大学との決勝戦。一進一退の攻防が続いたが、勝利の前に大きな壁が立ちはだかった。「第4セット目の終盤、私のサーブレシーブが崩されてしまったのをきっかけにチーム全体のミスを呼び、第4セット目を取られてしまったんです」。最終セットを前に、チームには重苦しい雰囲気が漂った。

主将としてチームを鼓舞すべきところが、彼自身が気持ちを切り替えられずにいた。「そんなとき、私の立場を思いやった同期や後輩たちが先陣を切って声を掛け合ってくれました。そこでようやく『自分がどれだけミスをしても、主将として頑張らなきゃいけない』と気づいたんです」。彼を筆頭に磨いてきたチームの“掛け声”に自身が救われた瞬間だった。チームの体力もぎりぎりだったが最後の力を振り絞り、見事勝利を収めた。「最上回生として優勝できたことが本当に嬉しかった」とチーム14年ぶりの快挙を笑顔で振り返った。

少しでも長くこのチームで

「私たちは、西日本のトップを争えるチームです。全日本インカレでは大学入学以降、1回戦を突破できていないため、勝負強く一戦一戦を戦い抜き、ベスト8を目指していきます」。熾烈な戦いを制した今、引退までの大きな目標を掲げ、まずは8月30日に開催される西日本インカレに挑む。「大学では主将として悩むことが多く、これまで経験したことのない苦しさがありました。だけど、15年の競技人生のなかで今が一番楽しいです。全員で切磋琢磨し、バレーボールと向き合うことが楽しいんです。少しでも長く、このチームでバレーを楽しみたい」。新たな境地に至った彼は、仲間と共に学生最後の高みを目指す。

PROFILE

平尾歩夢さん

清風高等学校(大阪府)卒業。小学2年生の時、テレビで観た2007年バレーワールドカップがきっかけでバレーボールを始めて以来、人生のなかで大好きなスポーツになった。ポジション「リベロ」だけではなく、高校3年生時には「スパイカー」としても活躍。体を動かすことが好きで、休日もランニングやトレーニングに励む。最近は高校や大学バレーボールの試合動画をYouTubeで視聴し、熱いプレーに感銘を受けている。

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