「世代を超えて人と人がご縁でつながり、知識や経験を共有するなかで、お互いの『やってみたい』と思う気持ちを応援することのできる場所を作りたいと思っていました」。そう語るのは川﨑敏矢さん。3回生のときに寺社でイベントを行う学生団体「てらふる」を設立後、4回生の秋に個人事業「TERAFUL」を開業。学生と寺社がつながり、地域の活性化を行う仕組みづくりに励んでいる。現在、多くの人々のご縁がつながる場所として京都・円町の交流スペース「てらはうす」を運営。さらに歴史の面白さを伝えるYouTubeの運営にも携わるなど、幅広い活動に取り組んでいる。ご縁を生み出し続ける彼に活動への思いを聞いた。

「君が本当にやりたいことは何?」

小学生の頃から社会科の教員を目指し、京都で歴史を学ぶため、立命館大学へ進学。しかし、学びを深めるうちに進路選択に迷いが生じ、「自分が何者になったらよいのか」と思い悩んだ。学外とのつながりを求めて参加した団体で、偶然知り合った社会人の一言が転機となる。「『君が本当にやりたいことは何?』と問われ、答えられませんでした」。悩み続け、出てきた答えは「寺子屋」だった。「大好きな歴史、京都、寺、それらに教育を組み合わせると『寺子屋』が浮かびました。地域に根づくお寺で、世代を超えた人々がご縁でつながり学び合う場所を作りたいと思ったのです」。

川﨑さんがご縁にこだわるのは理由がある。「実は小学5年生のとき、事情があって車で登下校していたんです」。車での登下校を羨む友人からの言葉が胸に刺さり、家では苦しい思いが溢れてきた。中学校・高校でも気軽に外出ができず、孤独を抱える日々だった。しかし大学進学後は、仲間や先生とのつながりに恵まれ、周囲の人とのご縁の大切さを知った。「今度は僕が人のご縁をつなぐ人になろう」。「本当にやりたいこと」の答えを見つけた川﨑さんは、学生団体「てらふる」の設立へと動いた。

順調にスタートを切り、仲間も増えていった「てらふる」。しかし、定期試験期を迎えると活動の参加率が大幅に低下。3人だけでミーティングを開催したときもあった。そんな状況を変えようと川﨑さんは仲間に働きかけた。すると、「皆があなたのようにモチベーションを保ってマルチタスクができるわけではない」と仲間の一人から厳しい言葉が投げかけられた。「自分がやっていることは間違っているのか」と精神的に追い詰められ、解散を検討するにいたった「てらふる」。失意のなか、彼を救ったのは団体設立のきっかけを与えた社会人だった。信頼する人物への相談のなかで、「団体を解散するほうが無責任」と結論を出し、迷いを吹っ切った。メンバーが忙しくなる時は休息期間を設け、イベントがない時期でも交流会を開催し、年間のスケジュールを立て、円滑に活動が進められるよう工夫した。

人と人が出会うきっかけづくりを

お寺での謎解きゲームなどのイベントが好評を博し、三重県でイベントを実施することに。三重大学・皇學館大学の学生と連携し、共催したイベントは大盛況だった。イベント後、三重大学の学生から「川﨑さんのおかげで、ずっとやりたかった学外のイベントができただけでなく、多くのつながりが生まれました。本当にありがとうございました」と感謝の思いを伝えられた。「こんな自分でも人と人が縁でつながるきっかけを作り、『やってみたい』という気持ちを応援することができて嬉しかったです」と笑顔で振り返った。三重県での経験を機に、より多くの人が出会うきっかけ作りを行うため、個人事業「TERAFUL」を開業し、経営を学ぶため大学院へ進学した。その後、寺社でのイベントを運営しながら後輩の育成に力を注ぎ、2021年3月に「てらふる」を後輩に託し、個人事業へと注力するようになった。

多くの人の“ご縁”をつなぐ

2021年4月、誰もが気軽に訪れ和気藹々と語り合い、自然とご縁がつながる場所の必要性を感じ、「てらはうす」をオープンした川﨑さん。「自粛生活で孤独に苦しむ人が増えていますが、かつての僕のように苦しむ人が一人でも救われる場所として『てらはうす』を発展させていきたい」と力強く意気込みを語る。人と人とのご縁をつなぎ、多くの人を笑顔にしてきた川﨑さん。彼の新たな挑戦はまだ始まったばかりだ。

※「てらはうす」の詳細は以下から
ご縁で繋がるお茶の間「てらはうす」

PROFILE

川﨑敏矢さん

福岡県立小倉高等学校卒業。幼少期から水泳、英会話、美術、そろばん、ピアノ、書道など幅広い習い事を行い、多芸に富んだ才能を発揮。3回生の時に設立した学生団体「てらふる」は、全国の学生団体・サークル・部活動を表彰するコンテスト「第6回学生団体総選挙」のイベント企画部門で見事グランプリを獲得。

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