長年の伝統を背負い、数多の功績を残してきた立命館大学ボート部。10月、「第99回全日本選手権大会兼第48回全日本大学選手権(以下、インカレ)」において、創部以来、初めてインカレで女子総合優勝を成し遂げた。「仲間と力を合わせてボートを進める。そこには、勝ったときに何倍にもなる喜び、一人だけでは知り得なかった感動があります」と語るのは、女子主将の鈴木伶奈さん。個人の能力を超えたチーム力、一糸乱れぬ美しいオールさばきで水上を駆けるチームボート。彼女もこの競技に魅了された一人だ。世界を目指し、この競技を極める彼女に思いを聞いた。

“もっとボートに乗りたい”

「初めてボートに乗ったとき、水面を進む今までにない感覚が新鮮でした。『この競技をやってみたい』と好奇心が大きく揺れたのを覚えています」。中学3年生の秋、山形県スポーツ発掘事業のトライアルに参加したことを機にボート競技を始めた。「私の強みは、高い身長と手足を生かした力強いオールさばきです。高校2年生の時、オランダでの強化合宿では、海外選手との共同練習のなかで『自分の強みを見つけ、そこを伸ばす』大切さを学びました。その日から自身の強みを見つめ、磨いてきました」。当時はスカル種目(※1)「シングルスカル」に打ち込み、国民体育大会で2連覇、日本代表として「2018年世界ボートジュニア選手権大会」に出場するなど、数々の成果を残してきた。

大学からはスイープ種目(※2)に転向。一本のオールで漕ぐこの種目は、スカル種目よりも水の負荷が大きかったが、「一漕ぎの力強さ」を磨いてきた彼女にはぴったりの種目だった。一方で、「これまでシングルで戦ってきたため、自分だけの力とタイミングで漕いできました。しかし、スイープ種目は一人の力では戦えません。共に乗るクルーと息を合わせ、同じタイミング、同じ出力で漕ぐ必要があります」と、初めてのチームボートに難しさを覚えずにはいられなかったという。
日々の努力が実を結び、「2019アジアボート選手権」のスイープ種目「舵手なしペア」で日本代表として出場し、銀メダルを獲得した。「ペアで出場した髙野晃帆さん(スポーツ健康科学部・2020年卒)の力が大きかったですが、私にとってはスイープ種目に転向して初めての大会、初めてのアジア選手権でここまで戦えたことが大きな自信になりました。『もっとボートに乗りたい。もっともっとスイープ種目を頑張りたい』そう強く思いました」。チームボートへの思いが一層高まった瞬間だった。

※1 選手が2本のオールを持ち、ボートを進める。「シングルスカル」はボートで唯一の個人種目。
※2 選手一人が1本のオールを持つ。スイープ種目はすべてボートに2人以上で乗る。

強いチームであるために

2020年秋には、2回生ながら女子主将に抜擢。高いチーム力を要する「フォア」や「エイト」ではクルーリーダーを務め、チームのレースプランを練った。そのなかで、「共にボートに乗るクルー全員が水上でのイメージを統一させる」といった意識共有に苦戦を強いられた。レース後には、必ずクルーと意見交換の場を設け、自身の描いたレースプランに対する意見や、クルー同士のオールさばきのイメージを吸い上げることを欠かさなかったという。「チームボートで最高の結果を出すためには、何度もクルーとボートを漕ぐイメージをすり合わせることが大切です。チームには、日本代表経験のある選手や、感覚が鋭い選手も集まっており、的確な意見をくれる仲間は心強い存在です。2人や4人、時には8人で、“一つのイメージ”を創り上げる。そこにチームボートの大きな魅力を感じます」。競技への熱い思いは彼女を成長させ、着実にチームの実力を高めていった。

10月のインカレでは、日々磨いてきたレース運びを生かして「舵手付きフォア」で優勝を飾り、創部初となる女子総合優勝に貢献した。「これまで描いてきたレースプランと実践が見事に重なったレースでした。昨年の女子総合2位だった悔しさを糧に、優勝を掴むことができて嬉しかったです。ただ、結果に甘んじることなく、来年度も連覇することはもちろん、個々の力を伸ばし、他大学に圧倒的な差をつけて勝てる強いチームをつくりたい」。新たに刻んだ伝統を背負い、チームとしてさらなる高みを目指す。

来年度も主将としてチームを牽引しながら、学生最後のシーズンを迎える。「この2年間はコロナ禍の影響で世界大会が中止・延期になってしまい、日本代表になれる機会がありませんでした。来年こそは日本代表として“世界で戦える選手”になります」。新たな成長を遂げた彼女は、次なるステージへ向けて突き進む。

PROFILE

鈴木伶奈さん

山形県立酒田光陵高等学校出身。ボート部女子主将。ボート競技との出会いは、スポーツタレント発掘事業「YAMAGATAドリームキッズ」トライアウトで、ボート協会の目に留まり、埼玉県での強化合宿に参加したのが始まり。趣味は映画観賞で、休日には録画した映画を見るのが楽しみ。滋賀県でチャレンジしたいことは「ビワイチ」。


<2020年度の主な競技実績>
10月 第98回全日本選手権大会「女子舵手なしペア」「女子エイト」 優勝
10月 第47回全日本大学選手権大会「舵手つきフォア」優勝

<2021年度の主な競技実績>
10月 第99回全日本選手権大会 兼 第48回全日本大学選手権「舵手つきフォア」 優勝

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