「この作品で伝えたかった思いのすべては、映画のセリフでもある“明日のことは誰にも分からない。それでも私たちには今しかないんだ”という言葉です」そう語る永井哲太さん。11月、学生三大映画祭の一つ「第10回関西学生映画祭」で、監督として準グランプリにあたる「関西シネック賞」を初受賞した。吹奏楽部の青春と、コロナ禍を乗り超える学生たちの心情をストーリーに重ね、社会に思いを届けた受賞作品「ひっきりなしのブルー」。この作品に込めた思いと、彼自身の映像との向き合い方を語ってくれた。

映像は自分の思いを伝える手段

「今まで『映像で何がしたいんだろう?』とずっと考えてきましたが、『映像は、自分の伝えたいこと、表現したいことを伝える一つの手段』という考えに至り、映像を楽しめるようになりました」と語る永井さん。大学入学までは映像にほとんど興味もなく、映像学部に入学したのは「何かおもしろそう。やったことのないことをしてみたい」という興味からだったという。
「実際入学してみると、周りには映像が大好きな人や、自分で映画をつくってきた人が集まっており、レベルが高くて驚きました」と苦笑い。「自分は映像学部に向いていないかもしれない」と漠然とした不安を抱きながら、2020年に2回生を迎えた。そして春学期、グループで短編映画を制作する実習で、初めて映画監督を務めることに。するとこの作品が想像以上に高評価。映像を企画・プロデュースする分野に新たな魅力を見出したと同時に、手ごたえを感じた。その後も課外活動で自らコンテンツ企画に尽力。「『おもしろいって何だろう?』と考え、企画を繰り返すうち、自分のなかには想像以上に“伝えたい思い”があることに気づきました。それを伝えていく手段として、映像があることに気づいたんです」。この思いが、彼の映像に対する軸となった。

コロナ禍で生まれた作品「ひっきりなしのブルー」

高校時代、吹奏楽に情熱を傾けていた。「入学当初から、吹奏楽をテーマに何か作品を作りたいと思っていました。世の中には吹奏楽がテーマの実写映画が少なく、とことん吹奏楽にフォーカスした映画を作ってみたかったんです」と、2021年4月、監督として2本目となる映画制作に取り掛かった。また、もう一つのテーマにはコロナ禍での経験があった。学生生活、イベント、さまざまな機会がコロナ禍で一変した状況を振り返り「『しかたない』の一言が社会を包んでいたように思います。でも、本当にこのままでいいのだろうか、そう思ったんです。そんな社会への思いを表現したかった」。自分のなかにある“伝えたい思い”を形にするべく、彼は動き出した。

高校時代の吹奏楽部の後輩や顧問にヒアリングを実施。2020年にコロナ禍で中止になった全日本吹奏楽コンクールの状況、最後の一年をその大会に駆けていたにもかかわらず、突然希望を奪われた高校生たちの悲しみや苦しみ、それでも前を向く人たちの思いを忠実に再現した。「吹奏楽のサウンドのおもしろさにストーリーが加わり、観ていておもしろい作品に仕上がりました。明日が分からない状況でも、今を生きるしかない。この作品でそんな思いを伝えたかったんです」。
10~11月にかけて行われた関西学生映画祭では、129作品から見事「関西シネック賞」を受賞。「学生映画であっても、おもしろくなければ評価されません。目に見える形で評価されたことが嬉しかった。また、撮影、音響、編集、どれをとっても学生映画の域を超えた作品になりましたが、それはスタッフ全員の技術の賜物でした。私は監督を務めたまでです。みんなと作品を創り上げた経験は財産になりました」と喜びを振り返った。

“おもしろい”を求めて

「残りの大学生活は、勉強や研究といった『大学生でしかできないこと』にもっと力を入れていきたい」と、映像の本質を追究していく。そして「映像やゲーム、広告などコンテンツを通してまちづくりや企画に携わっていきたい」と目標を語った。
「私が常に忘れないよう心に留めているのは、“おもしろい”が大前提ということ。伝えたい思いが先走った映像になるのではなく、観る人の“おもしろい”を求め、そのうえで伝えたい思いを表現していくことが大切です」と、これからも人々の胸を打つ映像を生み出し、そこに自身の思いを乗せていく。新たな成長を遂げた彼は、次なる目標へ突き進む。

PROFILE

永井哲太さん

九州産業大学付属九州産業高等学校出身。福岡県出身の福岡ソフトバンクホークスファン。高校生の頃は吹奏楽部に所属。映像学部の4回生がお酒を飲みながら、4年間の振り返る様子をラジオ配信する「聞く飲み」を大学2回生時に企画した。

最近の記事