淡く美しい色彩を放つ水彩画。それは、形が崩れているために店頭に並べなかった人参やナスなど“へんてこりん”な野菜からできた「おやさい絵の具」で描いたもの。「“へんてこりんでもいいやん”。完璧でなくてはいけないと、生き辛さを感じていたあのときの私がずっと言ってほしかった言葉です。何かで悩んでいる子どもたちに、自分らしさの大切さを伝えたいんです」。そう話すのは、学生団体「ラピスプライベート」代表の山内瑠華さん。捨てられるはずだった野菜に新たな未来を吹き込み、SDGsの実現に奮闘する彼女が抱く思いと、目指すべき大きな目標を聞いた。

※立命館大学・立命館アジア太平洋大学・立命館高校・立命館守山高校の学生・生徒13人、他大学の学生8人で構成され、おやさい絵の具を使ったワークショップやSDGsを伝える活動を行う。

“へんてこりんでもいいやん”

2020年、コロナ禍の夏。「私は暇を持て余していたため、農家である祖父母の仕事の様子をみていました。しかしそこで目にしたのは、手間暇かけて育てたのに、色や形が悪くて捨てられる大量の野菜でした」。初めて廃棄野菜の現状を知り、大きなショックを覚えたという。捨てられてしまう野菜の運命を変えるため、自分ができることを考えたとき、「野菜の“色”を使って子どもと遊べたら面白いかもしれない」と、そんなアイディアが閃いた。
当初は、廃棄野菜をミキサーでペースト状にしたり、煮だした汁を使ったりなどして絵の具として活用してみたが、水分が多いため保存には傷みや匂いなどの課題が多かった。それでも友達や後輩を巻き込みながら、試行錯誤を繰り返すうち、活動に共感した他大学の学生や地域の農家、企業の力とアイディアを借りて、粉末状にすることで長期保存ができる持続可能な「おやさい絵の具」ができあがっていった。

おやさい絵の具を教材とした商業施設でのワークショップや小学校での特別授業、企画展示や生産者訪問、企業を対象としたSDGs研修など、学生団体「ラピスプライベート」の活動の対象は子どもから社会人まで多岐にわたる。そんな団体の活動の軸になっているのは“へんてこりんでもいいやん”という、印象的な言葉。ここには、彼女の経験が語る一つの思いが込められていた。
「私は、中学校、高校時代から社会問題に大きな関心があったのですが、周りからは『意識が高すぎる』『まじめすぎる』と言われてしまい、周りから浮いているように感じる自分がいました。みんなと同じでない自分が嫌いでした」。当時の彼女を包んでいたのは、大きな疎外感だった。「店頭に並べない野菜のように、周りと比べて普通でないものは認めてもらえない。あのときの自分自身と重なるものがあったのです」。

大阪府の私立小学校で担当した特別授業では、学校で育てた色も形もさまざまな野菜を使って、児童たちと手作りした絵の具で思い思いの絵を描いた。「捨てられてしまう野菜が形を変えて輝いて、みんなに楽しんでもらえるものになる。その姿を通して、自分に悩みを抱えている子どもたちに『みんなと違ってもいいんだよ』『自分らしくいればいい』って自信を持ってほしいんです」。彼女の経験と思いが、今では多くの人の学びと笑顔につながっている。

挑戦を止めない

今後は、活動の知識と経験を生かして余剰食材を活用した食品の開発や、野菜からとれる水分を使った化粧水の開発など、新たな取り組みを進めている。団体の活動を持続可能なものにしていくための基盤づくりが大きな目標であり、活動をより社会に浸透させるため、彼女自身は将来、女性起業家となる進路も意識するようになった。「へんてこりんでもいい、失敗してもいいと、恐れずにさまざまなことに挑戦してきた経験が、私のなかで大きな自信となり、憧れだった『起業』が進路の選択肢になりました。どんな形であっても挑戦を止めず、走り続けていきたい」と、さらなる成長を意気込んだ。

「周りとは違うへんてこりんな野菜たち。だけどそれは、栄養が豊富なため元気すぎて割れるなど、へんてこりんには理由があるんです。形が違うだけで、一つひとつが大切な個性を持っているから面白いんです。同じ野菜でも、薄い色の野菜だから出せる色、割れてしまったから出せる質感。さまざまな個性が混ざるからこそ、言葉に表せないくらい美しい色が出る。そんな野菜たちと、奮闘する私たちの姿を通して、社会に面白いモノを発信し続けていきたい」。野菜も人もありのままの姿が輝く未来へ。新たな可能性を見出し、全速力で突き進む。

PROFILE

山内瑠華さん

学生団体「ラピスプライベート」代表。「心から活動を楽しむこと」を心掛けており、常に楽しみを持って活動に取り組む団体になることで、周りから応援してもらいやすい雰囲気づくりに努めているそう。趣味はお笑い鑑賞で、休日は大阪の劇場でお笑いライブを楽しむ。

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