「自分が敵わないような相手にも、『負けてはいられない』と立ち向かう強い気持ちをサッカーは育ててくれました」。そう語るのは、「京都サンガF.C.」に所属する川﨑颯太さん。「京セラ」「京都サンガF.C.」「学校法人立命館(立命館宇治中学校・高等学校)」が連携して推進する「スカラーアスリートプロジェクト※1」の対象選手として、「京都サンガF.C.U-18」に加入すると、2020年にはトップチームへ昇格。2021年には39試合に先発出場、ボランチ※2として攻守にわたり活躍し、約10年ぶりとなる「京都サンガF.C.」のJ1復帰に大きく貢献した。また、今年3月には、U-21日本代表として国際親善大会ドバイ・カップU-23の優勝にも貢献した。爽やかな笑顔と闘志溢れるプレーで人々を魅了する彼に迫った。

※1 スカラーアスリートプロジェクト:文武両道を兼ね備えた世界的トップアスリートを育成するため、2006年からスタートしたプロジェクト。
※2 ボランチ:守備的ミッドフィルダー(MF)のポジション。中盤で攻撃や守備の要としてゲームをコントロールする役割を担う。

プロになるために。15歳で決めた覚悟

幼稚園の頃からヴァンフォーレ甲府のスクールに通い、小学生になると地元の強豪クラブに入団。4年生のときにセレクションに合格し、ヴァンフォーレ甲府U-12に進んだ。 転機が訪れたのは小学5年生のとき。県外への遠征で、自分たちとの対戦を楽しみにしてくれていた相手クラブに対し、不甲斐ない試合をしてしまった。試合後、選手たちを前に監督は、グラウンドの泥を手に取り、それをユニフォームについているヴァンフォーレ甲府のエンブレムに次々と塗りつけ、こう言った。「小学生だろうと、看板となるエンブレムを背負っていることに変わりはない。俺たちは、このエンブレムをもっと大切にしなくてはいけないんじゃないか」。選手全員に熱く語りかける監督の言葉に、強く胸を打たれた川﨑さん。「サポーターが、心から応援したいと思うような選手にならなければいけない」。サッカー選手としてのプロ意識が芽生えた瞬間だった。

その後、ヴァンフォーレ甲府のU-15ではエースとして10番を背負い、周囲は当然U-18に進むと思っていた。だが、中学3年生の彼が下した決断は、新天地への挑戦だった。「ヴァンフォーレ甲府では貴重な経験を多くさせていただきました。でも当時の自分は、『良いプレーをしていればそのうちプロになれる』くらいの意識しかなかったんです」。本当にこのままで良いのか、そう自問し、悩み続けた末に彼の出した答えは、「プロになって活躍したいなら、より厳しい道を歩むべき」だった。両親と話し合い、高い競技水準だけでなく、学業にも力を入れる環境を探し求めた。その結果、「京都サンガF.C.」と提携して「スカラーアスリートプロジェクト」を推進する立命館宇治高等学校への進学を決めた。「プロで活躍するため、京都で戦い抜く」。固い決意を胸に刻み、弱冠15歳は故郷を後にした。

自分がチームを勝利に導く

京都では選手寮「RYOUMA」でU-18の選手たちと生活を共にし、豊富な対人練習メニューをこなして技術に磨きをかけた。また、立命館宇治高等学校では、日本一に輝いたアメリカンフットボール部や、甲子園に出場した硬式野球部の友人から多くの刺激を受けた。勉学にも一切妥協せず、2年生時の通知表ではオール5を取得。「友人が自分よりも良い成績を取っていると、『負けてられない』と奮起しました」と当時を振り返った。3年生のときにU-18の主将に就任し、高円宮杯JFA U-18サッカープレミアリーグ2019(WEST)では、チームを2位に導いた。選手としても念願だったトップチーム昇格の内定をつかみ取った。

だが、トップチームの練習では、何もできなかったと思うほど、他の選手とのレベルの差を痛感した。少しずつ出場機会をつかむようになってからも、試合に負けると「自分ではなく、経験の豊富な選手が出場していれば勝てたのではないか」と思い悩んだ。それでも、トップチームの選手としての重圧に耐えながら、「チームを勝利に導くのは自分だ」と自らを鼓舞し、未熟な部分は徹底的に練習して自分を追い込んだ。また、試合でのプレーやポジショニングについては、積極的にベテラン選手へ助言を求めた。彼の貪欲なまでの向上心と、類いまれなる努力は次第に実を結ぶ。豊富な運動量に加え、持ち味である予測対応力に磨きがかかり、2021年にはレギュラーに定着。1年目から出場試合数を大きく伸ばし、5月には念願のJリーグ初ゴールを決めた。「『もっと点が取れる選手になれ』と監督に言われていたので、チームを勝利に導く得点をあげることができて嬉しかったです」。この年、39試合で先発出場を果たし、2010年以来となるJ1昇格の立役者となった。

子どもたちの憧れの選手に

待ちに待ったJ1開幕戦で、決勝点となるゴールを演出して、チームを勝利に導いた川﨑さん。4月にはJ1初得点をあげ、ホームのサポーターを大いに沸かせた。「自分の持ち味を生かして『川﨑颯太』の知名度を高めることで、僕に憧れを持ってくれる子どもたちを増やしていきたい。小さい頃の自分がプロの選手に憧れたように、今度は僕が子どもたちに夢を与える存在になります」。サポーターが、心から応援したいと思う選手となった今、さらなる高みを見据えて成長を続ける彼に、ぜひ注目してほしい。

PROFILE

川﨑颯太さん

立命館宇治高等学校卒業。サッカーを始めたきっかけは、1歳の誕生日プレゼントとして両親からもらったサッカーボール。大学では、スポーツ産業論を専門的に学習。学びが深まったことで、サポーターをより強く意識するようになったそう。「多くの人がスタジアムに来てくれることで、京都を盛り上げていきたい」と意気込みを語る。

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