「『やろうと思ったら、何でもできる』。自分に限界を作らず、なりたい自分を描いて頑張ることを大切に、陸上と向き合ってきました」。そう語るのは、女子陸上競技部の山本亜美さん。6月に行われた「第106回日本陸上競技選手権大会」の女子400mHでは、決勝で自己記録を更新する圧巻の走りを見せ、大会連覇を成し遂げた。競技歴わずか4年ながら、ひたむきな努力で日本を代表するアスリートへと飛躍を遂げた彼女の陸上人生に迫った。

「自分には無理」中学生で抱えた葛藤

母親と姉の影響で、中学生から陸上競技を始めた山本さん。1年生のときに県大会の女子100mで5位入賞を果たすなど、当初から非凡な才能を発揮。全国大会での表彰台を目指し、日々練習に励んだ。だが、高い目標を掲げて自身と深く向き合うなかで、その目標と現実との間で葛藤するようになった。「『どうせ自分には無理だ』。そんな言葉が頭をよぎるようになり、徐々に自信を失ってしまいました」。3年生のときに200mで「全日本中学校陸上競技選手権大会」の出場を決めるも、準決勝で敗退。大会を終えて気づいたのは、「最後まで自分を信じてあげられなかった」ことだった。

転機が訪れたのは、高校1年生のとき。監督から高校での目標を問われると、彼女が口にしたのは「近畿大会で勝負できるようになりたい」だった。自信なげに語る彼女に、監督は発破をかけた。「お前の目標はそんなもんか。大事なのは、目指したい目標に向けて努力を重ねることだけだ。結果が出る前から無理だと決めつけるな」。監督の言葉で、心の霧が晴れた山本さん。「これからは、自分がなりたい姿に向かって諦めずに頑張ろう」。自分の可能性を信じ切ると決めたその固い意志が、その後の彼女の競技人生を大きく変えた。

全国トップクラスの選手になることを誓い、2年生になった彼女は400m・400mHに挑戦。懸命に努力を続けると、その年の茨城国体では400mHの大会新記録を樹立し、初の頂点に輝いた。それでもその結果に甘んじることなく、コロナ禍の自粛期間には父親が手作りしたハードルで練習を重ね、フォームの改善に取り組んだ。気持ちを切らさず努力を続け、「第104回日本陸上競技選手権大会」で高校歴代2位の好記録をマークして4位入賞を果たすと、「全国高校大会2020」では優勝に輝いた。

応援してくれるみんなのために

さらなる高みを求めて立命館大学に進学すると、「誰よりも楽しみながら練習をすること」を心掛け、常に笑顔で陸上と向き合い続けた。着実に力をつけて臨んだ6月の「第105回日本陸上競技選手権大会」では、予選で自己ベストを更新すると、翌日の決勝では実力者を抑え、初の栄冠に輝いた。「前日に『絶対優勝する!』と心に決めて就寝したのですが、本当に勝つことができてびっくりしました」と喜びを噛みしめた。

だが、さらなる飛躍が期待された矢先、怪我で戦線を離脱。秋に復帰するも、9月の日本インカレでは総合得点で1点もチームに貢献できず悔し涙を流した。それでも、仲間の奮闘する姿に「次は必ずチームに貢献する」と自らを鼓舞し、10月の関西インカレでは個人種目で優勝、リレー種目では準優勝を飾り、チームの総合優勝に大きく貢献した。 シーズンを終えた彼女は、翌年の目標を「とにかく勝ちまくる」に設定、ハードリング技術の向上に加え、ハムストリングスと臀部の筋肉を集中的に鍛えた。彼女の走りは、着実に力強さを増していった。

2022年6月、「第106回日本陸上競技選手権大会」が開幕。連覇の重圧から不安に襲われる彼女だったが、家族や仲間のエールが彼女を勇気づけた。「応援してくれるみんなに喜んでもらうために絶対勝とう」。周囲の支えを力に予選を通過すると、ここで彼女はある挑戦を決意する。「自己記録を1年間更新していなかったことに気づいたんです。過去の自分に負けたくなかった」。限界を超え、自己ベストで優勝すると自分に言い聞かせて臨んだ決勝。彼女の力強い走りは、他の選手を圧倒した。56秒38の自己最高記録で見事連覇を成し遂げた。「こんなに良いタイムが出るなんて本当にびっくりしました。みんなに喜んでもらうことができて本当に嬉しかったです」と喜びを爆発させた。

仲間とともに多くの喜びを

トップアスリートとなった彼女の次なる目標は、2024年のパリ五輪。「やっぱりパリ五輪を目指したい。前半の走りを改善して、参加標準記録を突破できるように頑張ります。まだまだタイムを伸ばせる自信があるので、楽しみながら練習を続けられそうです」と力強く語った。「陸上は自分と向き合っただけ、結果が出ます。日々自分の限界に挑戦することが本当に楽しい。でもそれ以上に、良い記録が出たときに仲間と喜びを分かち合えるところが、陸上の大好きなところです。もっと多くの喜びを仲間と味わうために、これからも頑張ります」。多くの人々に支えられ、なりたい姿を叶えた彼女は、次なる理想に向かって走り続ける。

PROFILE

山本亜美さん

京都橘高校卒業。小学5年生でタグラグビーを始め、主将としてチームを牽引。熱心な仲間とともに競技に打ち込んだ。大切にしている言葉は、小学校の恩師から教わった、プロ野球で活躍した王貞治氏の言葉である「努力は必ず報われる。もし報われなければ、それは努力とは言えない」。昨年の12月には、母校の草津市立山田小学校で特別授業に講師として招かれ、「自分がやろうと思ったら、何でもできる。自分にはできないと思わず、限界を作らずに挑戦しよう」と後輩たちにエールを送った。

タグラグビー:通常のラグビーから身体接触をなくしたボールゲーム。プレーヤーは腰にベルトを着け、両腰に「タグ」を着けてプレーする。


<2021年の主な成績>
6月「第105回日本陸上競技選手権大会」400mH 優勝
6月「2021日本学生陸上競技個人選手権」400mH 優勝、400m 2位
10月「第98回関西学生陸上競技対校選手権大会」400mH 優勝、女子4×400mリレー 2位

<2022年の主な競技成績>
4月「日本学生個人選手権」400mH 2位
6月「第106回日本陸上競技選手権大会」400mH 優勝

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