「辛い時こそ、周りを幸せにできる人間に」ウクライナ近隣国での支援活動に参加
きっかけは、両親から薦められた2曲
中学生の時、特別授業で世界の貧困について学ぶ機会があった。「世界には貧困や感染症で命を落とす子供が大勢いる。自分たちが行動することで、そうした子供たちの命を救い、苦しみを和らげることができる。そのことに気づいたんです」と振り返る谷井さん。今でも彼の脳裏に焼き付いているのは、体が痩せ細り、命の光が消えかかった子供たちを収めた一枚の写真だった。「戦争や貧困で苦しんでいる人の力になりたい」。小学生の時に見たミュージックビデオの遠い世界が、自分ごとになった瞬間だった。
いても立ってもいられなかった
そんな時、「ウクライナ近隣国への学生ボランティア派遣」のニュースを目にした。「いても立ってもいられず、すぐに応募しました」と語る彼。しかし、その話を聞いた両親は、谷井さんの決断に猛反対した。「戦争地帯の近くに行くなんて絶対あかん!もしものことがあったらどうするんだ!」。彼の身を案じる両親は、出国を認めようとはしなかった。それでも谷井さんは、決して諦めなかった。「苦しむ人たちを助けたい。誰かにそれを任せて傍観者になることはできなかったんです。今、自分が動かなければ」。その固い決意を訴え続けた結果、彼の意思を尊重し、両親は支援活動を認めてくれた。
拒まれた支援
活動中、ショッキングな出来事があった。「肌の色」を理由に、何人かの避難民から支援を拒まれたのだ。「こういう人もいるんだ…」。投げかけられた言葉に肩を落とした谷井さんだったが、同時期に活動していたWorld Central Kitchen※(以下、WCK)スタッフのBrett Dayさんが、「気にするな!」と明るく励ましてくれた。そうした反応をするのは一部の人だけ。多くの人は、「善意をありがとう」と言ってくれた。そんな感謝の言葉が、彼の支えとなった。また、どんなに拒否されても明るい笑顔で支援活動を続ける仲間の存在も彼を勇気づけた。
この出来事を通して、「こちらは善意のつもりでも、相手からすると『ありがた迷惑』なこともあり、100%受け入れられるとは限らない」と思うようになった。それ以来、相手に何かする前には必ず確認することを心がけ、目を見て笑顔で話し、相手の置かれている状況を考えながら丁寧に接した。すると、最初は支援を拒んでいた人々が、彼に心を開くことが増えていった。「私を見る目が、『不信』から『信頼』へと徐々に変わっていくのを肌で感じました」。異国の地での支援活動に、彼は確かな手ごたえを掴んだ。
※被災地や戦渦の人々に暖かい食事を届けるボランティア団体
自分から周りを巻き込んで幸せにしたい
谷井さんは、その少年から「どんなに苦しい状況であっても、自分から周りを巻き込んで笑顔にできること」を教えられた。「今までは、悩んで前へ踏み出せないことがありました。でも、広い視野で見れば、そんなことはとても小さなことだと分かったんです。怖がらずにまずは一歩を踏み出す。自分の目の前にいる人を少しでも“HAPPY”にすることが、自分にとっての幸せだと再認識できました。あの少年のように、辛い時こそ、周りを幸せにできるようになりたい」。オーストリアとポーランドでの支援活動が、谷井さんを大きく成長させた。周囲を幸せにする彼の挑戦は、まだ始まったばかりだ。
PROFILE
谷井亜斗夢さん
京都府立山城高等学校卒業。趣味は習字。一番、「無」になれる時間だという。
現在、フィリピン留学を計画中。今後の支援活動に役立つ英語の力を更に伸ばすことを目指している。また、フィリピンでは、ストリートチルドレンの支援活動をしたいと考えている。
写真のネックレスは、WCKのスタッフに相談した時、「もしまたそういうことがあったら、絶対この人が君を守ってくれるから」と渡してくれた思い出の品。