アフリカ・ルワンダで仕入れた豆を使ったコーヒーを提供するカフェを、期間限定で運営した大林芽生さん。友人たちにスタッフとして協力してもらい、カフェは大盛況。

気づいたのは、自分は沢山の人に支えられて生きているということ。周りにいるみんなのおかげで、やりたいことができています。周りの環境に感謝することが多くなりました」。そう語る彼女に、カフェ運営までの軌跡を聞いた。

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コーヒー1杯の重み

「私にはコミュニティカフェを作りたいという夢があります。今回の限定カフェでは、農家さんの人柄がわかり、自分の目で見て味わって、自信を持って出せる豆を、と考えました。コーヒー豆を仕入れるだけでなく、豆のことを一から学びたかった。それで、20223月にルワンダへ行き、現地の『コパカキ農園』を見学させてもらいました」。

コーヒー豆は、コーヒーチェリーから取り出した生豆を、洗って天日干しし、焙煎して砕くことでできあがる。「普段、何気なく飲んでいるコーヒーですが、その豆を作るために遠くルワンダの地で多くの人が汗を流し、さまざまな工程を手間暇かけてようやく完成させていました。現地で実際に学んだことで、コーヒー1杯の重みが変わりました」。美味しさはもちろんのこと、働く人たちの人柄が感じられるその豆に惚れ込んだ彼女。「どうしても『コパカキ農園』のコーヒーをカフェで出したい!」と思い、農園の方にお願いし、仕入れさせてもらえることとなった。

「農園を見学し、1つのものが自分の目の前に来るまで、どれ程の人の労力がかかっているのか。その過程に関心を持つようになり、多くの人によって生み出されてきたものに対して、感謝するようになりました」と自身の変化について語った。

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カンボジアで出会った“幸せ”の情景

小学生の頃、「青年海外協力隊」のCMを目にし、海外に興味を抱いた彼女。大学入学後すぐに国際ボランティアサークル「関西あおぞらプロジェクト」に参加した。夏休みを利用し、子供たちに手洗いやうがいなど、衛生教育をする為にカンボジアを訪ねた。ここでの体験が、彼女の価値観を大きく変えることになった。

「それまでは、『経済的な発展度合』が『幸せの基準』なのでは、と考えていました。『日本は経済的に恵まれていて幸せ、新興国はそうではなく可哀そう』というように」。ところが、彼女が現地で目にしたのは、家族が一緒に食卓を囲み、助け合って畑仕事をする、貧しくても幸せそうに生きる人々の姿だった。「“幸せ”は経済的なものでも、物質的なものでもない」。そのことに、彼女は気づいたのだった。

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暖かい居場所を作りたい

2回生の時には、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で大学へ行けず、自宅でPCに向かい、一人黙々と課題をこなす毎日を過ごした。食事も一人きりで、「孤独」を感じる日が続いた。そんな時、よく心に浮かんだのは、カンボジアでの「みんなが一緒に」過ごす情景だった。授業がオンライン中心となったのを機に、香川県の実家に帰省し、家族や友人たちとの心満たされる暖かい時間を過ごした。

「“幸せ”って何だろう?と考える時、『遠くにある何か』だと思ってきましたが、大切な人たちと一緒に過ごす時間のように身の回りに溢れているものだと実感できたんです」と彼女。

そして、彼女にはもう一つ、「暖かさ」や「居場所」に特別な思いを持つようになった出来事がある。小さい頃から好奇心旺盛で、興味のあることに真っ直ぐ進む性格。そんな彼女は、小学校のクラスメイトとうまく合わず疎外感を抱くことがあったという。

その時の経験から、「『自分らしく』いてはいけない。注目されないよう『普通』でいなくては」と思うようになり、表現することを抑え、自分の気持ちを人に上手く伝えることがしばらくできなくなった。

「この経験があったから、自分を支えてくれる暖かい人たち・居場所を大事にしたい。昔の私のように孤独を抱えている人がいれば、そっと汲み取れる人でありたいんです。暖かい場所に支えられてきたからこそ、今度は自分が支える側になりたい」と内に秘めたる思いを語ってくれた。

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人間万事塞翁が馬

大林さんにとって「暖かい居場所」といえば、家族でよく利用した地元のカフェ。お店の人とお客さんの距離が近く、自然と会話が弾むアットホームな雰囲気なのだという。そんなカフェを、彼女は学校の課題に、母親は読書に、祖母は友人とのお喋りに利用していた。目的は違うが、それぞれが心地良い時間を過ごせる場所。そんな場所での体験が、彼女の夢にもつながっている。

「“対話”を大事にしつつ、『コーヒーが美味しいから行ってみよう』、『ここに来るといつも落ち着けるな』というように、どのような思いで来られても一人ひとりに満足してもらえる場にしたいと思っています」。誰からも長く愛されるカフェにすることが彼女の夢だ。現在、コーヒー以外にも経営などについてさらに深い知識を習得しようと猛勉強している。

今後、コミュニティカフェにふさわしい場所を探すため、友人たちと一緒に国内外問わずたくさんの場所を訪れる予定だという。少しずつ、だが着実に、彼女は夢を形にしている。

「『人間万事塞翁が馬』という言葉が好きです。感覚を大切に進む方向を決め、『何か違うな』と思うことがあっても、その時の状況や感情にとらわれず、結果を長い目で見ていきたいと思っています。振り返った時、思いもよらないことがプラスになっていた、と気づくことがあると思うんです」。自分らしく胸を張って歩みを進める彼女の行く先を、これからもずっと見つめていたい

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PROFILE

大林芽生さん

香川県立丸亀高等学校卒業。

趣味は読書、旅行、ヨガ、カフェ巡り、糠漬け作り

(健康の為に始めたのがきっかけ。オススメは「豆腐の糠漬け」。チーズのようになっておいしいそう)。

休日に京都のお寺巡りをするのが最近の楽しみ。ルワンダに行ったことで、日本の素晴らしさを再認識。

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