「みんなが等しく、愛いっぱいの世の中に」キャンパスにおける無料の生理用品設置プロジェクトを推進
「私たちが目指すのは、『誰一人取り残さない、愛いっぱいの社会』を実現することです。そのために、さまざまな社会課題について、知り、考え、行動するきっかけをつくることに力を注いでいます」。そう語るのは学生団体「canola」代表の門田菜々さん。2021年9月に団体を立ち上げ、ジェンダーや人権問題、性教育などの啓発活動を始め、2021年11月からは、大阪いばらきキャンパス(以下、OIC)内のトイレで無料の生理用品設置プロジェクトを実施。その活動は大学を動かし、2022年9月末から、全キャンパスのトイレに生理用品のディスペンサーを設置することが決定された。思いやりであふれるキャンパスを実現するため、奮闘を続けた彼女が活動への思いを語ってくれた。
日常では考えない問題について、知るきっかけを
大学入学までは社会的課題に深い関心がなかったという門田さん。関心を持つきっかけとなったのは、生協学生委員会での活動だった。入会後すぐに社会的課題を担当する事務局に所属し、尊敬する先輩学生の背中を追って精力的に活動するうちに、さまざまなセミナーに参加するようになった。特に沖縄県と福島県でのセミナーに大きな影響を受け、次第に社会的課題を自分ごととして捉えるようになった。「戦争や平和、原発事故といった課題と向き合うなかで、『自分でもできることは何だろう』と真剣に考えるようになりました」と自身の変化を語る。
転機が訪れたのは、同性婚のニュースを目にしたことだった。「愛する人同士でも、結婚する権利が認められないこと」に衝撃を受け、ジェンダーについて学び始めた。学びを深めるなかで、過去の自分の何気ない発言が、友人を深く傷つけてしまっていた可能性があることも知った。
「高校生のとき、友人に『女の子なのに理系に行くんや!凄い!』と言ったことがありました。尊敬の念から発した言葉でしたが、ジェンダーについて学んだことで、その発言がいかに不適切なものだったか分かったんです」。それ以外にも過去の友人への言動が不適切なものだったと知り、ショックを受けた彼女。だが、この経験が彼女のなかに変化を生んだ。「何も知らなかった大学生の私だからこそ、普段は接することがないさまざまな課題について、知ってもらうきっかけを生み出せる」。「自分でもできること」の答えを見つけた門田さんは、「canola」設立へと動き出した。
2021年9月、門田さんは友人とともに学生団体「canola」を設立。大学生を対象として、ジェンダーや人権問題、性教育に関する啓発活動をSNSで行いながら、それらの課題を知るきっかけとして、オンラインセミナー「canola talk」を開催。オンラインでの配信など準備や運営に苦労したが、丁寧に作りこまれた資料や、開催後に実施したSNSでのフォローアップ投稿など、参加者に寄り添う姿勢が好評を得た。
大学に無料の生理用品を
活動が軌道に乗り始めたなか、「生理の貧困」が大きな社会問題となった。ニュースでその状況を知った門田さんは、すぐさまメンバーと協議し、キャンパス内で無料の生理用品設置プロジェクトを立ち上げた。学生を支援するだけではなく、月経に関する知識も深めることができる機会となるよう構想を練った。また、「学生全員が安心して過ごすことのできる環境をつくりたい」との思いから、トランスジェンダーの学生の使用を見込みつつ、月経に対する男性の知識の向上を目的として、男性用トイレへの生理用品の設置も準備した。製品の管理や感染症対策の徹底など、準備は手探りの状態が続いたが、大学の総務部・学生部の職員、関連会社との間で基準をクリアすべく検討を重ねた。使用済み製品の清掃にルールを定め、シフト制で清掃や製品補充を行った。さらに「立命館大学校友会未来人財育成奨励金(団体支援)※」制度を活用して生理用品の安定的な調達に見通しをつけ、プロジェクトの早期実現に向けて、仕組みを整えていった。
※立命館大学の学生グループの自主的な学習活動の活性化を支援する制度。校友からの寄付である「校友会未来人財育成基金」が原資となっている。
詳細はこちら 学生の学びと成長を支援する奨学金・助成金活動報告
2021年11月、OIC内のトイレで「生理用品の無料設置と関連ポスター掲示による月経不平等の解決と性教育の拡充プロジェクト」が実現。取り組みは大きな反響を呼んだ。「急な月経のときに助かった」、「種類が多くとても有難かった」という声や、「月経について理解を深めるきっかけになった」という感想が寄せられ、2022年3月までとされていた設置期間は延長を決定。さらに彼女たちの活動がきっかけとなり、2022年9月末より、大学が全キャンパスのトイレで試験的に生理用品のディスペンサーを設置することを決めた。彼女たちの地道な取り組みは全キャンパスに広がり、立命館大学におけるダイバーシティ&インクルージョンを前進させた。「友人だけではなく、職員の方々にも多くのご支援をいただき、感謝は尽きません。挑戦を大事にする立命館で、このような形で新たな取り組みができたのは、立命館の学生として誇りです」と思いを語った。
生理用品のプロジェクトが不要になることを願って
9月に卒業を控え、大学内での生理用品設置プロジェクトを後輩たちへ託した門田さん。「実は、今回のプロジェクトが早く不要になることを願っています」と思いを語った。「この活動が必要でなくなるのは、トイレットペーパーがトイレに設置されているのが当たり前であることと同じくらい、生理用品がトイレに設置されることの必要性が大学内で広まったときだと考えていました。そういった意味で、大学内に専用のディスペンサーが設置されたことは、活動が不要となる大きな一歩になったと感じているので、本当に嬉しく思っています。これからも、少しでも多くの人が愛と誇りを持って生きられるように、自分ができることを続けていきます」。誰もが幸せを感じ、愛があふれる世の中へ。これからも彼女は、さまざまなきっかけづくりに取り組んでいく。
PROFILE
門田菜々さん
金蘭千里高等学校卒業。設立した学生団体「canola」は、「快活な愛、誇り、希望」という花言葉がある「canola flower(菜の花)」が由来であり、「世界中のみんなが愛と誇りをもって生きていけますように」という願いが込められている。卒業後も代表として「canola」での活動を継続する予定。現在は、就職先であるIT企業のインターンシップに参加し、広告営業部門にて奮闘している。卒業論文では、男性の月経に関する偏見について、社会心理学の観点から考察した。将来は、大学院進学も視野に入れており、卒業後も学びへの情熱は尽きない。