空間を最大限に生かし、高々と宙を舞うバトンの迫力と、スピーディーに舞う華やかな姿に思わず目を奪われる “バトントワリング”。手や肘、首などを使い回転させるバトンの操作技術は数百種類あるとも言われ、極めて芸術性の高い競技である。「バトンを回して踊っていると、頭の中が真っ白になって夢中になれる。『きっと自分は踊るために、バトンを回すために生まれてきた』という喜びがあふれてくるほど、この競技が大好きです」と語るのは、バトントワリング部の田和聖也さん。今年8月に開催された「第35回世界バトントワーリング選手権大会」フリースタイル個人男子ジュニアの部で初優勝に輝いた。世界最高峰の大会で栄冠をつかみとった喜びと、バトントワリングとの出会い、学んだものを語ってくれた。

この道を窮めていきたい

バトントワリングを始めたのは3歳の頃。地元のスクールで練習を重ね、徐々に才能を開花させていった。小学6年生のときに「全日本バトントワーリング選手権大会(以下、全国大会)」へ出場。自分の踊る姿を見て、家族や周囲の人が笑顔になってくれることに喜びを感じ、「もっと上手になりたい」という思いが深まった。「トップクラスの環境でバトンに打ち込んで、この道を窮めてみたい」。彼の決意が、本格的な競技人生の扉を開く。

中学校はバトンの強豪校に進学。徹底した基礎練習で、技の正確さ、美しさを磨いた。練習の成果は、着実に結果へと結びついた。1年生のときに全国大会のソロトワールで4位に入賞すると、3年生で日本代表に選出され、「WBTFインターナショナルカップ」のトゥーバトンで優勝を果たした。さらに、部長として全国大会での団体種目制覇に大きく貢献。高等部に進学した後も、個人種目で全国大会を制覇。多くの実績を残し、着実にトップクラスの選手へと成長していった。

ソロトワール:1本のバトンを使用して技術を競う種目。正確なテクニックとスピード感、ダイナミックさが見所。
トゥーバトン:2本のバトンを用いての技術を競う種目。常に両手を使って動きの中に、2本のバトンを交互にあるいは同時に投げ上げる高度なテクニックの展開が見所。

途方もなくバトンが好き

順風満帆な競技人生。しかし、高校2年生のときの「WBTFインターナショナルカップ」の本番中に、突如として、自分が崩れていくような強烈な違和感が彼を襲った。その後、追い打ちをかけるかのように、コロナ禍で部活動は休止に。不調を抱えながらも部長として奮闘したが、大会の中止・延期が重なり、心身ともに疲弊した結果、部長を交代することに。次第に「何のためにバトンを続けているのか」と思い悩むようになり、競技を辞めることまで考えるようになった。

一方で、そうした苦境は、自身のバトンに対する深い愛情に気づくきっかけにもなった。「ある日、好きな曲を自由に踊っていると、夢中になって心の底から幸福を感じられたんです。その瞬間、『途方もなくバトンが好き』という思いに気がついたのです」。再びバトンと向き合うことを決意した彼は、不調と上手く付き合いながら練習に励んだ。万全の状態ではなかったものの、2021年3月に開催された「第35回世界バトントワーリング選手権大会 日本代表選考会」フリースタイル個人男子ジュニアの部で優勝。2年に一度行われる世界最高峰の大会への出場権を獲得した。

大学入学後は、「バトンが好き」という思いを支えに、「誰よりも練習する」という自身の原点に戻って、厳しい練習に打ち込んだ。心身の不調は続いていたが、「周囲の支えのおかげで、バトンができている」と感謝の心を忘れることはなかった。「人生のなかで最も練習に打ち込んだ」と語るほど、全てをバトンに捧げた。

2022年8月、「第35回世界バトントワーリング選手権大会」フリースタイル個人男子ジュニアの部が開幕。「世界バトントワーリング連合(WBTF)」に加盟する39カ国の代表選手が競い合う世界最高峰の大舞台に、それまで感じたことのない緊張や恐怖に襲われた。だが、「あれだけ練習したのだから大丈夫。自信を持ちなさい」という顧問の先生の言葉で自らを奮い立たせた。終始安定した演技で予選を首位通過。決勝戦ではバトンを落とすミスもあったが、集中力を切らすことはなかった。最後の大技で高々と宙を舞ったバトンをしっかりと手に収め、計76.0570の得点で優勝。憧れの舞台で初の栄冠に輝いた。「ミスがあったからこそ、集中力を高めて最後の技を決めることができました。支えてくださった方々に最高の結果で恩返しができて本当に嬉しかったです」と喜びを爆発させた。

感謝を胸に。さらなる高みへ

次に見据えるのは、12月に開催される全国大会での団体種目の連覇だ。「やっぱり団体種目で勝ちたい。いまはとても練習に身が入っていて、12月の本番が楽しみです」と充実感を漂わせる。「個人としては、全国大会のシニアの部の『グランドチャンピオン』を目指しています。バトンは、周りのために頑張ろうという心や、他者を尊重する姿勢を育んでくれました。支えてくださる方々への感謝を胸に刻み、精一杯練習に励んで恩返しをしていきます」。多くの人に支えられ、輝きを取り戻した田和さん。さらなる飛躍を遂げるべく、彼は今日もバトンを回し続ける。

PROFILE

田和聖也さん

PL学園高等学校卒業。母親の影響で3歳から競技を始める。小学生の頃はバトントワリングと並行して水泳、サッカーにも打ち込み、身体を動かすことが得意だった。普段の練習で特に大切にしているのは、「我見」と「離見」を意識すること。自分を客観視するトレーニングを取り入れ、技術の向上に磨きをかけている。座右の銘は「万物すべてこれ我が師」。

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