2022年11月、男子バスケットボール部初となるB1リーグのプロバスケットボールプレイヤーが誕生した。「中学・高校と無名校の選手でもプロの舞台で戦うことができる。そういった選手だからこそ可能性があるということを証明したいです」。そう語るのは、満尾竜次さん。圧倒的な得点力とリバウンド力を武器に、「2022年度 関西学生バスケットボール選手権大会(以下、関西学生選手権)」で得点王を獲得。関西屈指のシューティングガード/スモールフォワードとして名をあげ、「ファイティングイーグルス名古屋」への加入が決定した。地道な努力と向上心でプロへの扉をこじ開け、創部初の快挙を成し遂げた彼の競技人生に迫った。

シューティングガード:3ポイントシュートやドリブル技術に長けた得点能力の高い選手が配置される。
スモールフォワード:主にアウトサイドでプレーし、さまざまな役割をこなせるオールラウンド型の選手が配置される。

自分を変えない限り、この先の結果はついてこない

バスケットボールを始めたのは中学生のとき。ポジションはセンターを任され、インサイドで得点を奪う役割を主に担った。中学まで競技経験はなかったが、徹底した基礎練習でドリブルやアウトサイドプレーの技術に長けた選手へと成長。2年生の秋には地元の尼崎選抜の選考会に挑戦する機会を得た。だが選考会では、強豪校の選手が集うなか、無名校の選手である自分がこの場にいることに引け目を感じてしまい、消極的なプレーを連発。精彩を欠いたプレーに周囲からは叱責が飛び、満尾さんは意気消沈して会場を去った。

センター:リバウンドやディフェンス、ポストプレーなど、主にインサイドにおける攻守の役割を担い、高身長でコンタクトに強い選手が配置される。

しかし、選考会での挫折は彼が成長を遂げるきっかけとなった。「選考会に挑む準備や覚悟が足りていなかったことに気づき、自分の不甲斐なさを痛感しました」。その悔しさを糧に、彼は「あのときの失敗は二度と繰り返さない」と強い覚悟で自分の弱さと向き合い続けた。地道な努力は高校で実り、3年生のときに、念願の兵庫県選抜に選出。中学での挫折から4年。過去の挫折を打ち破り、見事に選抜の座をつかみ取った。

選抜チームでは、基本技術から戦術理解の高め方まで、仲間たちから多くの示唆を得た。そのなかで彼が最も刺激を受けたのは、バスケットボールにかける情熱だった。「僕と彼らとの一番の違いは、『バスケに全てを捧げているかどうか』でした」。「ここで自分を変えない限り、この先の結果はついてこない」、その強い思いが彼を突き動かし続けた。自分を根底から変えることを決意して猛練習を重ねると、「第39回オニツカ杯争奪兵庫県高校招待バスケットボール優勝大会」で優秀選手賞を獲得。己の殻を打ち破り、雲の上の存在だった強豪校の選手たちと比肩する結果を残した。

自分が勝利に導く。芽生えたエースとしての自覚

しかし、大学入学後は大学バスケの高い壁に直面した。「練習についていくのが精いっぱいで、『有名な人たちと比べたら、所詮自分はダメなんだな』と悩む毎日を過ごしました」と当時を振り返る。それでも先輩たちに必死に食らいつき、2回生の秋のリーグ戦で大きなチャンスをつかむ。急遽欠場となった主力選手の代役をきっちりと果たし、念願のレギュラーの座に定着。3回生になると「2021年度 関西学生選手権」で得点ランキングベスト5となる活躍を残し、チームのエースへと飛躍を遂げた。

一方で、秋のリーグ戦では厳しさを増したマークに対応できず、エースの役割を果たせなかった。思わぬ結果に悔しさを募らせた彼だったが、決して立ち止まることはしなかった。仲間の奮闘する姿に、「自分が必ずチームを勝利に導く」と自らを鼓舞し、ドリブル練習やウエイトトレーニングに打ち込み、徹底して自分を追い込んだ。
彼の類まれなる努力は着実に実を結ぶ。強さを増したドリブルに加え、3ポイントシュートに磨きがかかり、「2022年度 関西学生選手権」で初の得点王を獲得。その実績が評価され、「日韓学生親善バスケットボール大会定期戦」に参加する関西学生選抜の一員に選出された。「マークが厳しくても結果を出すのが当たり前なので」と控えめに喜びを語る彼だったが、その実力は確かなものとしてスカウトの目に留まった。リーグ戦の最終節、試合を終えた彼の下に「ファイティングイーグルス名古屋」から正式に入団のオファーが。「ほっとしました。進路が決まらず両親に心配をかけていたので、早く活躍している姿を見せたいです」と喜びを語った満尾さん。憧れの舞台への切符をつかみ取った彼には、多くの仲間たちから祝福の声が寄せられた。

無名校出身だからこそ、必ず道は開ける

2023年1月、待ちに待ったB1デビュー戦でプロ初得点をあげ、ホームのサポーターを多いに沸かせた満尾さん。「早くチームに貢献できる力をつけて、『このチームには満尾が必要だ』と思われるような選手になりたいです」と意気込みを語った。そんな彼の胸には、自身の経験から生じた、ある特別な思いが秘められている。「中学・高校と無名校にいた僕は、自信を持てず、『どうせ自分なんて』と自分を卑下する日々を過ごしていました。それでも仲間や指導者の方々の支えのおかげで弱さを克服し、プロの舞台に立つことができました。お世話になった方々への恩返しを胸に、今度は僕自身が同じ境遇の人に『無名校の選手でも、きっかけをつかめば必ず道は開けるんだ』ということを伝えられる選手になりたいです」。類まれなる努力で道を切り開いた彼が、プロの舞台で躍動する姿は、多くの後進に希望と勇気を与えるだろう。

PROFILE

満尾竜次さん

兵庫県立尼崎小田高校卒業。小学生の頃はサッカーに打ち込む少年時代を過ごしていたが、中学校にはサッカー部がなかったことから、兄が所属していたバスケットボール部に入部を決めた。「中学校にサッカー部があれば、バスケットボールを始めることはほぼ確実になかった」と当時を振り返る。最近のブームは、休日や試合会場への移動の合間にNetflixでドラマやアニメを見て気分転換をすること。

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