「離乳食を作るのが負担」「作ってもなかなか食べてくれない」。こうした悩みを抱える新米ママ・パパは多い。厚生労働省の調査によると、約75%の保護者が離乳食に関する何らかの悩みを抱えている。そんなママ・パパの力になるために、オンラインの離乳食・幼児食支援サービス「チルディッシュ」を運営しているのが、株式会社FoodFulの柳陽菜さんと作野充さんだ。管理栄養士や保育士といった14人の専門家に、公式LINEを使っていつでも気軽にアドバイスを受けられるサービスを2022年5月からスタート。現在500人を超えるユーザーがサービスを利用している。「ママ・パパの離乳食に関する負担を少しでも和らげ、食卓に笑顔を広げたい」と、食育に悩む子育て世代のために奮闘する二人に話を聞いた。

厚生労働省(2015). 平成27年度乳幼児栄養調査結果.

ママ・パパが楽しみながら離乳食に向き合えるように

幼少期から野菜が苦手だったことから、「自分のように野菜が苦手で偏食の人を減らしたい」と考え、食育について関心を寄せていた柳さん。一方、作野さんも、高校でサッカーに打ち込む寮生活を送った経験から食事の重要性を痛感し、食育分野での事業を興そうと考えていた。そんな二人が出会ったのは、2回生の6月頃。語学の授業で食に関する事業について議論を交わしたところ、意気投合。「子どもの偏食を減らしたい」という方向性で一致し、好き嫌いによる子どもの偏食をなくす食育事業を模索した。

二人は早速、子育て世代の親を対象に、子どもの好き嫌いに関するインタビューを実施。すると、「嫌いなものがあっても、そのうち偏食はなくなる」といった意見が多くを占め、親の食育に関する関心が低いことを知った。一方で、「離乳食の時期は、最も食育への意識が高まりやすい」という気づきを得たことから、離乳食を新たな出立点に定め、事業プランの策定へと動き出した。
そうしたなか、作野さんが執筆している食育のブログを見た管理栄養士から、事業化に向けた協力の申し出が届いた。相談を重ねた結果、離乳食の悩みを解消するオンライン相談サービスを考案。ママ・パパが、楽しみながら離乳食と向き合うことができる環境を生み出すべく、立命館・社会起業家支援プラットフォーム「RIMIX」の支援制度を活用してビジネスプランを練り上げた。

磨きをかけたビジネスプランは高く評価され、「第18回立命館大学学生ベンチャーコンテスト2021」で最優秀賞・ASTER賞を受賞。「食育で悩むママ・パパが救われる事業だと思う。ぜひ形にしてほしい」と審査員からエールを受け取った。「プランを高く評価していただけたことはもちろんですが、離乳食に焦点を当てた理由や、事業にこめた思いをしっかりと受け止めていただき、貴重なアドバイスを頂戴できたのが何より嬉しかったです」と二人は口をそろえる。
コンテストを終えた二人は、フィードバックをもとにLINEを使った無料相談サービスの開発に着手。約50人のユーザーを対象に試験運用を開始した。ユーザーからは「心に余裕ができた」「手軽に相談することができて本当に助かった」といった声が多数寄せられ、高い支持を獲得。予想をはるかに上回る手応えをつかんだ。

起業家としての自覚の芽生え

順風満帆に起業への道のりを歩む柳さんと作野さん。だが、二人の間では次第に意見の衝突が生じるようになった。「険悪な雰囲気になることも多く、『もう一緒にやるのは無理』という気持ちが度々出るようになりました」と柳さんは振り返る。しかし、事業を巡り激しく議論を交わした時間は、互いの信頼をより深める機会をもたらした。「自分の思いをぶつけるうちに、『作野さんとだからこそ起業したい』と強く思っていたことに気がついたんです。そこからは作野さんの思いも大切にしながら、会社をより良くするために協力する方向へとシフトできました」と転換点を振り返った柳さん。作野さんも「ここまでこれたのは、柳さんのおかげ。互いに苦しんだ部分もありましたが、そうした過程を経るからこそ良いものができるということを学びました」と笑顔で語った。

2022年3月、株式会社FoodFulを設立した柳さんと作野さん。その2か月後には離乳食・幼児食のオンライン無料相談サービス「チルディッシュ」をリリース。口コミは徐々に広がり、2022年末にはユーザー数は試験運用期の10倍となる約500人に増加した。さらに、12月には子育て支援団体からの要請を受けて、滋賀県内で親子向けの離乳食教室を開催。「離乳食に悩む方々の役に立つために、少しでも負担を減らせるような取り組みをしていきたい」と、対面での事業にも取り組んだ。作野さんは「リリースを経たことで、ユーザーや専門家の方々を背負ったという責任感が芽生え、一層サービスを充実させようという覚悟が決まりました」と決意を新たにした。

柳さんにも起業家としての新たな転機が訪れる。2023年2月、女性起業家のビジネスプラン発表会「LED関西」に出場すると、約250人のなかから10人のファイナリストに選出。注目の女性起業家へと成長を遂げた。「周囲の方々から多くの刺激を受けたことで、あらためて自分たちの事業に誇りを持てるようになったと同時に、『FoodFulの柳としてやっていく』という強い気持ちを育てることができました」と自身の変化を語った。事業化に向けた構想から約1年半。彼女たちの眼には起業家としての強い決意が宿っていた。

「チルディッシュ」で食卓に笑顔を

3月に設立1周年を迎えたFoodFul。今後はECサイトでのベビー用品の物販、手軽なレシピの動画配信といった事業展開を見据えている。「乳幼児期の子育ては、『チルディッシュがあればもう安心』と感じてもらえるサービスにしていきたいです」と2人は意気込む。「離乳食への悩みや不安の奥には、子どもへの大切な思いやりがあると思います。そういった思いやりの心を大切に、楽しみながら離乳食と向き合うことができる機会を『チルディッシュ』を通じて提供していけたら嬉しいです」。食を通じ、人と人とが思いやる機会を創るべく、奮闘を続けてきた柳さんと作野さん。彼女たちはこれからも、食卓を囲むたくさんの笑顔を紡いでいく。

PROFILE

柳陽菜さん

私立関西大倉高等学校卒業。株式会社FoodFul Co-founder CEO。
料理人の父親の影響で、食分野に関心を持ったことから食マネジメント学部に進学。人一倍の野菜嫌いでありながら、食事の楽しさを通じて周りの人を思いやる環境づくりに向けて奮闘している。

作野充さん

私立岡山県作陽高等学校卒業。株式会社FoodFul Co-founder COO。
5歳からサッカーを始め、大学入学後もサッカーを続けていたが、怪我を機に競技を引退し、起業の道へと進んだ。「どんな場所であれ、誰もが食べるものの選択肢と決定を、柔軟にかつ嫌な想いなく過ごせる毎日を実現させたい」という思いを胸に邁進している。

株式会社FoodFulでは、事業拡大に向けてメンバーを募集中。
法人・事業の詳細は以下のサイトをご覧ください。
チルディッシュ公式HP:https://www.childish.cloud/
公式Instagram: https://instagram.com/childish_foodful?igshid=YmMyMTA2M2Y=

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