「企画や演出を考えるのも、現場で撮影するのも、編集するのも、全てが楽しい。“映像が好き”という純粋な気持ちが、自分を突き動かす原動力となっています」。そう語るのは、学生を対象としたショートフィルムコンテスト「第3回TYO学生ムービーアワード」で銅賞を受賞するなど、映像クリエイターとして学外にも活躍の場を広げている吉田昌史さん。彼の胸に秘められた、映像づくりにかける情熱に迫る。

映像の持つ力を実感し、映像制作の道へ

高校2年生の頃から、面白い動画を作っては友人に見せていた吉田さん。映像制作の道を志すきっかけとなったのは映画『ハリー・ポッター』シリーズだった。「ハリー・ポッターは僕の大好きな映画です。実際には存在しない世界観が映像で素晴らしく表現されており、長年にわたって多くのファンに愛されています。この作品を見て映像の持つ力のすごさを実感し、“自分自身も人々の感情に訴えかけるような映像を作りたい”と考えるようになりました」。

そして、映像監督を目指して立命館大学映像学部に進学。最初の2年間は「照明部」に所属し、ライティングの知識や技法について徹底的に学んだ。照明は映像の印象を大きく左右する要素だ。同じせりふを発したとしても、明るい空間の中で発言するのと暗い空間の中で発言するのとでは、伝わり方が異なってくる。「照明を駆使すれば、言葉にするよりももっと多くの情報やメッセージを視覚的に伝えられます。その点に面白さを感じて、照明の勉強に力を注ぎました」と当時を振り返る。

行動力を武器に、映像制作の実践経験を積み上げる

映像学部のカリキュラムを通して、映像制作の基礎知識は着実に磨かれていった。しかし2回生のある時、「リアルな現場で監督のノウハウを学びたい」といった意欲が芽生える。そこからの行動は早かった。トップアーティストのミュージックビデオ(MV)制作等を手掛けるプロの映像監督にSNSでコンタクトを取り、熱い思いをアピール。撮影現場を見学する許可を得た。それ以降、監督に認められて、京都と東京を定期的に行き来しながらプロの現場で映像制作技術を学ぶようになる。「幸運にも、監督の横に付いて手伝いをしながら、直接いろんなことを教わる機会をいただきました。企画の考え方やアーティストとのコミュニケーションの取り方、演出の仕方など、学んだことは数え切れません」。この出来事は、監督としての成長を促すかけがえのない経験となった。

思いを行動に移し、自らチャンスをつかみにいく。この能動的なスタイルは、その後も彼に多くの学びの機会をもたらした。それがアーティストのMV制作だ。「インディーズのバンドやラッパーなど、気になった方々に直接メールで『MVを制作しませんか』と連絡を取っていました。多い時期だと1日8件ほど。毎日のようにさまざまなアーティストさんに声をかけていました」と話す。積極的な働きかけの結果、いくつかのアーティストから前向きな返事を受け取ることができ、これまでに4作品のMV制作に携わった。中でも思い入れのある作品として、彼はpmam.の『prettyガール』のMVを挙げる。「このMVで伝えたかったのは、“どれだけ辛いことがあっても、この音楽を聴けば楽しくなれるよ”ということ。そのコンセプトを基に全体のストーリーを決めて、世界観を表現するために照明や美術にこだわりました」。特に“楽しさ”が表現されているのが終盤のライブシーン。撮影のために、30名ものエキストラを集めたという。「pmam.さんは僕のやりたいことを尊重してくれて、その実現のためにたくさんの人が協力してくれました。感謝の気持ちでいっぱいで、自分の中でも非常に思い出深い作品となりました」と笑顔で語る。

コンペティションへの挑戦がさらなる成長につながった

MV制作に取り組みながらも、彼はまた新たな挑戦に一歩を踏み出す。学生向けのショートフィルムコンテスト「第3回TYO学生ムービーアワード」への応募だ。映像制作の経験は積んでいたものの、映像コンペティションへの参加は初めてだった。作品の要件は「『踊る』から発想した60秒のショートフィルム。吉田さんは『挑戦』という作品を制作・応募した。フィルムの主人公は一人の女の子。思春期の少女が抱える葛藤や揺れ動く心、問題に立ち向かう姿を、エモーショナルな音楽や印象的なライティングとともに描き出した。こうした音楽や照明の使い方が審査員から高く評価され、吉田さんは銅賞を受賞。初挑戦・初受賞の成果を振り返り、喜びをこう語った。「自分がゼロから考えて作った映像が評価されたことに大きなやりがいを感じました。今回のテーマではMV制作のノウハウを生かせたので、自分の強みを出せた点が受賞につながったのかなと考えています」。

一方で、制作過程に関しては反省・後悔が残る結果となった。「演出の意図を撮影部や照明部にしっかり共有できておらず、撮影中にその点を指摘されました。自分の考えた演出できれいな映像を撮れたことは自信になりましたが、意思疎通がうまくできていればもっと良い映像になったのではないかと思います」。この苦い経験をきっかけに、コミュニケーションの大切さを改めてかみしめた吉田さん。アワード応募後に制作したLucyの『Elevate』のMV制作では、反省を生かして撮影に臨んだ。その結果、これまでの作品で最もうまく関係者間のコミュニケーションを図ることができ、成長を実感したという。「伝えたいメッセージを最大限に伝えることができ、自信作になりました」。

卒業制作を目前に控え、「家族の絆を描くようなコメディタッチの映画を撮りたい」とビジョンを語る吉田さん。“映像が好き”という気持ちから生まれる創作意欲はとどまるところを知らない。彼の手によって、今後どのような“人の心を揺さぶる”作品が生み出されていくのか、期待は高まるばかりだ。

PROFILE

吉田昌史さん

兵庫県立北須磨高等学校卒業。好きな映画は『ハリー・ポッター』シリーズ、『千と千尋の神隠し』、『君の名は。』といったファンタジー作品。日頃のインプットも欠かさず、ミュージックビデオを1日3本は必ず視聴。映像作品に触れない日はないほど、映像中心の生活を送っている。

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