近年、世界中で再ブームとなっている“競技ヨーヨー”。的確に音楽を捉えながら繰り出される技の数は優に数千種類を超え、プレイヤー独自の感性が光るパフォーマンスは、観る者を魅了する高い芸術性を誇る。現在、主流となるフリースタイル競技は計5部門あるが、そのうちの2部門で全国トップクラスの実力を持つのが橋本向陽さんだ。5月に行われた「2023年全日本ヨーヨー選手権大会」4A部門で準優勝、1A部門で5位入賞を果たし、自身初となる2部門での入賞を成し遂げた。「競技生活で大切にしてきたのは、ヨーヨーを心から楽しむことです。小さな頃、ヨーヨーに夢中になった時の初心を忘れずに競技と向き合い続けることを何より心がけてきました」。誰よりもヨーヨーを愛し、地道な努力を重ねて2部門プレイヤーの道を切り拓いた彼の競技人生に迫った。

1A部門:1つのロングスリープヨーヨーを操る。
4A部門:糸がついていない状態のヨーヨーを操る。

人生を変えたヨーヨーとの出会い

ヨーヨーとの出会いは小学5年生の時。第3次ヨーヨーブームの影響でヨーヨーを始めたが、友人のなかでは下手なほうだった。それでも練習を続けた結果、友人を上回る技術を身に付けた。「運動が苦手で劣等感を抱いていた自分が、初めて自信を持ってプレーできるようになったのがヨーヨーでした。このときの体験が自分の人生を変えてくれたと言っても過言ではありません」と当時を振り返る。

ヨーヨーにますます夢中になっていく橋本さん。そんな彼が競技者の道を志すきっかけとなったのは、偶然目にした世界大会の映像だった。「音楽にぴったりと合わせながら、自分が見たこともない次元が違う技を次々と繰り出す姿に衝撃を受けました。『これをやってみたい!』と興奮したのをはっきりと覚えています」。程なくして競技用ヨーヨーを購入し、「上達のためにヨーヨー界のことはすべて吸収しよう」と決意。把握しうる限りのヨーヨー動画をひたすら研究し、技の習得に力を注ぎ続けた。

そうしたなか、ヨーヨーの世界大会「WORLD YO-YO CONTEST 2015」が日本で開催されることに。一大イベントを存分に楽しもうと、練習を重ねてきた1A部門に加えて趣味の4A部門でもエントリーした結果、1Aでは予選で敗退したものの、4Aで準決勝進出を果たした。すると、大会を終えた彼のもとにヨーヨーメーカー「JAPAN TECHNOLOGY 」からスポンサーの申し出が届く。「君は4Aで伸びる。うちに所属して頑張ってみないか」。突然のオファーに驚いた橋本さんだったが、迷うことなく4A部門への転向を決意。晴れてアスリートとしての第一歩を踏み出した。

間もなく彼は頭角を現す。翌年に行われた「Japan Open Yoyo Champion Ship 2016」4A部門で初優勝を飾ると、「WORLD YO-YO CONTEST 2018」では4位に入賞。「がむしゃらにやった結果、たまたま良い演技ができただけです」と控えめに語ったが、その実力は確かなものとして評価された。
躍進を遂げた裏には、貪欲なまでの向上心と彼ならではの積み重ねがあった。「フィギュアスケートの動画のほか、映画やアニメなどの創作物から技や演技のヒントを得ています。ヨーヨーだけに目を向けていると気づかぬうちに柔軟な発想が失われてしまいますが、異なる分野から学んだ経験が、表現や技の引き出しを増やしてくれたのは間違いありません」。

1Aと4A、2部門プレイヤーへの挑戦

実績を積み重ね、さらなる飛躍を期した2019年。だが、5月の「全日本ヨーヨー選手権大会」ではまさかの準決勝敗退。さらに気持ちを切り替えて臨んだ「WORLD YO-YO CONTEST2019」では、決勝でミスを連発し4位に終わった。「3位とはわずか0.1ポイント差でした。技の難易度や成功率の向上だけでなく、精神面の課題を乗り越えていかないと上にはいけないということを痛感しました」。悔しさを噛みしめながらも未熟な技術を徹底的に見直しつつ、本番力をつけるためのトレーニングにも励み続けた。

さらに橋本さんは、コロナ禍を迎えて新たな挑戦を決意。1A・4Aの2部門で大会に出場し、2部門プレイヤーとしてヨーヨーを窮める道を選択した。だが、その選択に周囲からは否定的な声が多く寄せられた。「1Aだと決勝に進めるかどうかという実力しかなかったので、『1Aに出ないで4Aに専念すべきだ』と言われることがよくありました」。それでも彼は自らの選択を変えることはなかった。「4Aには1A由来の技も多いので、1Aの技術を磨くことがヨーヨーそのもののスキルの上達につながると信じて取り組みました」。地道な努力は徐々に成果へとつながり、「全日本ヨーヨー選手権大会」では毎年1Aの順位を上げ、2022年の大会では4A部門で4位、1A部門で11位という結果を残すまでに成長を遂げた。

迎えた「2023年全日本ヨーヨー選手権大会」。熾烈な優勝争いによる緊張でヨーヨーを落とすミスもあったが、集中力を切らさずに最後の技をしっかりと決め、4A部門で準優勝。その後行われた1A部門では5位入賞を果たし、自身初となる2部門入賞を達成した。「4Aは本当にひどいパフォーマンスでした」と悔んだが、2部門入賞という結果には頬がゆるんだ。「ようやく、1Aでも勝負できるということを示せたと感じています。自分の選択に迷いが生じたこともありましたが、自分を信じてやり続けて良かったです」と喜びを語った橋本さん。周囲の声にめげることなく、類まれなる努力で自身の可能性を切り拓いた。

効率的な練習方法を確立し、ヨーヨー文化の発展に貢献を

その後も、8月に行われた「WORLD YO-YO CONTEST 2023」の4A部門で、過去最高となる3位入賞を果たした橋本さん。「準備通りのパフォーマンスができれば表彰台を狙える」という宣言の通り、有言実行を成し遂げた。
そんな彼が「今後の競技人生で必ず成し遂げたい」と語るのが、独自の練習メソッドの確立だ。「上手くなりたい人が、より効率的に上達する練習方法を確立したいと考えています。僕自身、ヨーヨーを始めた頃は上達方法がわからず、無理に練習量を増やした結果、多くのことに支障が出てしまいました。そのときの経験を生かして、初心者の方も参考になる練習方法を生み出すことで、ヨーヨー文化の発展に貢献できれば嬉しいです」。ヨーヨーを誰よりも楽しみながら挑戦を続けてきた橋本さん。ヨーヨー界を引っ張る存在となり、多くの後進を育てる担い手となる日を心待ちにしたい。

PROFILE

橋本向陽さん

立命館慶祥高等学校卒業。所属している「ヨーヨーサークルMADOI 」では、ヨーヨーの体験会や地域交流イベントを通じて、大会とは一味違うパフォーマンスを披露している。2019年には「TED x Sapporo 2019 」に出演するなど、多数のイベントに出演し、ヨーヨーの魅力を伝えている。

橋本さんのパフォーマンスは、以下のSNSからご覧いただけます。
X: https://twitter.com/koshipippi44
Youtube:2019World Final 4A 04 Koyo Hashimoto WORLD YOYO CONTEST 2019 Presented by Cloud Native Inc WYYC2019

最近の記事