「World Baseball Classic」で大きな注目を集めた野球。迫力あるプレーが繰り広げられる硬式野球が一般的には注目されるが、異なる魅力を備えた軟式野球も根強い人気を誇る競技だ。「軟らかい球ならではの打撃技術や走者が出たときの戦術の多様さ、一球ごとの駆け引きには、軟式野球ならではの魅力や奥深さがあります」。そう語るのは、体育会軟式野球部の柴田雄太さん。今年の春に行われた「関西六大学軟式野球連盟 春季リーグ戦」で首位打者・ベストナインを獲得し、春季リーグ3連覇に大きく貢献。その実力が認められ、「2023大学軟式野球日本代表」に選出された。高校では控え選手で「野球エリート」ではなかった柴田さん。そんな彼が、ひたむきな努力で日本代表へと成長したその道のりに迫った。

猛練習の末に習得した左打ち

野球を始めたのは小学1年生のとき。きっかけは、2009年の「World Baseball Classic」だった。大きな重圧にさらされながらも結果を残すイチロー選手の姿に心を奪われ、地元の少年野球チームに入団。「とにかく野球が大好きで、練習が待ち遠しいというほどに夢中でした」という少年時代を過ごした。
そんな彼が大きな決断をしたのは、中学3年生の春のこと。思うような結果を残せず、レギュラーになれないと悩んでいた彼に、「左打ちに挑戦してみてはどうか」という監督からの助言があった。春の大会まで残り少ない期間での提案だったが、「持ち味の俊足をより生かせる」と挑戦を決意。当初は打球が内野手の頭を超えるのがやっとの状況だったが、猛練習の末に左打ちを習得し、レギュラーの座をつかみ取った。

高校入学後も持ち味である走塁技術を地道に磨き続けた。最終的に控え選手として高校野球生活を終えたが、投手の癖を見抜く観察眼が評価され、3年生のときに1塁ランナーコーチと好機での代走に抜擢。ここぞという場面でのチームの攻撃を支える役割を全うした。

「レギュラーとして全国大会で活躍する」新たな目標を掲げ、軟式野球部へ 

大学入学後は、親しい先輩やチームメイトからの誘いもあり、軟式野球部に入部。「大学ではレギュラーとして、全国大会に出場する」という目標を胸に、チャンスをつかみ取るべく練習に励んだ。
転機が訪れたのは、2回生の夏合宿。柴田さんの走力と安定した送球を評価した主将が「外野手に転向してみないか」と声をかけた。主将の読み通り、柴田さんはすぐに外野守備に順応した。広い守備範囲と正確な送球を武器にレギュラーの座をつかむと、3回生の春季リーグでは、高校時代から磨いた走塁技術でリーグ3位の盗塁数を記録。周囲の期待以上の結果を残し、自身が掲げた「レギュラーとして全国大会に出場する」という目標を達成する機会を手繰り寄せた。

だが、待ちに待った舞台で思わぬ挫折を経験する。迎えた初戦、軟式野球部は最終回に逆転されてサヨナラ負けを喫する。逆転のきっかけは柴田さんのミスによって生まれたものだった。「あのミスさえなければ」、悔しさを抑えながら球場を後にしたが、その経験は彼に強い責任感を芽生えさせた。「これからは自分がチームを引っ張っていく存在になる」。そう自らを鼓舞すると、攻守ともに未熟な部分を一から見直し、技術の向上に力を注いだ。強い決意で重ねた努力は着実に結果に結びつき、秋季リーグでは打率.290、リーグ2位の打点を記録。リーグ戦連覇に大きく貢献した。

「チームで勝つために」成長を促した野球観の変化

チームの攻撃を牽引する存在へと成長を遂げた柴田さん。その背景には、野球観の転換があった。「軟式野球部に入ってからは、『チームで勝つ』ことの面白さに目覚めました。高校までは監督の指示に従うだけでしたが、自分たちで対戦相手を分析して戦術を練り、対応した練習内容を考えていくなかで、チームスポーツとしての野球の奥深さを知ることができたと感じています」。チームが勝つために、一つひとつの練習の意味を掘り下げる。その作業を繰り返すことで、試合に臨む姿勢も変化していった。「打てないときは自分が犠牲になっても走者を進め、後ろにつなげる。追い込まれても粘って四球をもぎ取りチャンスを作る。それを重視するようになりました」。

勝利への貪欲な姿勢と向上心は、さらなる成長を促した。4回生の春季リーグでは、粘り強い打撃に磨きがかかり、打率.389で首位打者とベストナインを獲得。出塁率、盗塁数もリーグトップ5に入る好成績を残し、リーグ屈指の選手へと飛躍を遂げた。「良い結果が出ても一喜一憂しないことを心がけた結果、予想以上の結果を出すことができました」と謙遜する柴田さんだったが、その実績は大学軟式野球界でも高く評価された。これまでの実績や実技のほか、人間性も評価対象となる書類審査と選考合宿を通過し、2023大学軟式野球日本代表に選出。地道な努力で活躍の場を切り拓いてきた彼は、遂に日本代表のユニフォームに袖を通すこととなった。

自分を成長させてくれた軟式野球に恩返しを

学生生活最後の大会となった「第3回全日本大学軟式野球選抜大会」。試合直前にインフルエンザの集団感染が発生したもののベスト8進出を果たした。試合を振り返り、柴田さんは晴れやかに周囲への感謝を語る。「もっと上位にいける力があったぶん悔しい結果になりましたが、大好きな野球を最後まで楽しく続けることができました。そして、高校ではレギュラーになれなかった僕が目標を達成し、さらに日本代表に選ばれることができたのは、仲間やこれまでお世話になった方々、支えてくれた家族のおかげです」。

今年の12月に予定されている日本代表の台湾遠征に向け、着々と準備を進めている柴田さん。台湾では、現地の大学との親善試合や子ども向けの野球教室に参加する予定だ。「自分が感じた軟式野球の魅力や奥深さ、日本の軟式野球の良さを現地で伝えていくことで、軟式野球に恩返しができればと思っています」。真摯な姿勢で彼が感得した軟式野球の魅力は、国境を越えても必ず届くことだろう。

PROFILE

柴田雄太さん

立命館高等学校卒業。「令和5年度関西六大学軟式野球連盟 春季リーグ戦」で首位打者、ベストナインを獲得した粘り強い打撃と高い盗塁技術を持ち味とし、「2023大学軟式野球日本代表」に選ばれる。卒業後はスポーツメーカーに就職予定で、「頑張るスポーツ選手たちをしっかりとサポートしていきたい」と意気込む。趣味はスニーカーの収集と部活動の自粛期間で始めたゴルフ。

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