気候変動の原因となる温室効果ガスを、世界全体で実質ゼロにするための取り組み“カーボンニュートラル”。その実現に向け、環境・エネルギー分野について実践的に学びを深めているのが、窪園真那さんだ。「環境だけを守るのではなく、経済や社会的包摂の視点などから統合的に社会を変えていくことが大切だと感じます。そのために、人が楽しみながら無理せず行動変容できる社会のシステムをつくりたいと考えています」と話す彼女の挑戦に迫った。

自身の指針を決めた、ある出会い

鹿児島市と奄美大島で生まれ育った中で、大好きな街が廃れていく様子を目の当たりにし、人口減少と少子高齢化の問題に直面した経験から、地域を活性して未来に残すにはどうすればいいかということを頭の片隅で考えていた。ただ、昔からエネルギーや環境問題に強い関心を持っていたわけではなかった。むしろ自分の興味関心がどこにあるのか、大学入学時は悩むこともあったという。

そんな窪園さんは、とにかくあらゆる授業を一生懸命受講し、授業で扱うさまざまな社会問題について学びを深めていった。その中で、ある出会いが彼女に大きな影響を与えた。
1回生の後期から2回生の前期にかけて、後にゼミナールの指導教員となる山口歩教授の環境エネルギーに関する授業を履修した時のこと。ゲストスピーカーとして登場した、地域エネルギー会社を起業している卒業生 木原浩貴さん(2000年・産業社会学部卒業)の話を聞いて衝撃を受けたのだという。「『地域のあらゆる人が関わりながら、エネルギーを作って需要するという社会構造ができれば、エネルギー問題自体の解決だけでなく、地域の課題解決に、ひいてはより持続可能な地域社会実現につながる』ということを話してくださったんです。社会を巻き込む力として“エネルギー”が大きな手段になることに気付き、感心したと同時に強い危機意識を持ちました」。

縁でつながってきた活動

そこから彼女はエネルギー政策を軸とした地域活性について、学内での学びにとどまらず、学外でも多様な取り組みを実践していった。
まず、環境・エネルギー分野と並行して興味があった外交・安全保障分野を学びたいと考え、国際社会で活躍する人材養成特別プログラム「オナーズ・プログラム」の2022年度カリキュラムを受講。エネルギー政策に関しても今までは地域内に焦点があったが、よりマクロレベルの視点を持って国や地域のエネルギー政策について考えるようになった。

オナーズ・プログラムで、同じ受講生だった友人が縁となり、窪園さんの活動はさらに外に向けて前進した。友人が参加していた、企業・大学・行政・NPOなどをつなぐ社会問題解決のための研究室「一般社団法人インパクトラボ」が滋賀県から受託して開催する、若者向けの脱炭素をテーマとしたワークショップの企画・運営を手伝ってくれないかと声を掛けられたのだ。ワークショップは22年8月から翌年3月にかけて計5日間行われた。窪園さんは初めてながらも、脱炭素に取り組む地域に訪問し、地域の人と企画を進めた。
窪園さんはインパクトラボのメンバーとなり、その後も学生ライターとして、環境省主催の環境エネルギーに関する研修会を取材し、記事を執筆。23年8~9月には2度目となる滋賀県のワークショップの企画・運営も手掛けた。
これらの活動を通じてさまざまな地域に赴き、自分の肌で感じた地域の課題が窪園さんの中で大きな学びにつながった。「地域社会にはさまざまな立場の人がいます。活動を通して自分は学ばせてもらっている立場という意識が強いのですが、そういった若者が地域の中で多様なステークホルダーを巻き込む力があるのではないかと思いました。若者の意見が欲しい、一緒に行動したいと考えている地域も多く、若者が地域に入っていくことの意義を感じました」と語る。

印象深かったセッション企画

インパクトラボでの取り組みと並行して、窪園さんは海外研修などにも積極的に参加、国際的な知見を養った。23年2~3月の2週間、立命館大学の全学募集プログラムの海外スタディで、マレーシア工科大学へ留学。現地の環境エネルギー、都市開発や農業について学んだ。同年8~9月にはオナーズ・プログラムの研修で、インドネシアのナトゥナ島へ行き、フィールドワークを重ね、観光で街を活性化する方法を現地の副市長に提案した。
フィールドワークだけでなく、23年11月には韓国とハンガリーの2カ国で国際的な学会にも参加。韓国ではキャンパスでカーボンニュートラルを達成させるための取り組みについて発表を行った。ハンガリーでは、「若者がどうやって持続的に湖沼の環境保全に関わっていくか」をテーマとしたユースによるセッションを開催。窪園さんはセッションのディレクターを務め上げ、企画から運営までを行った。

多種多様な活動を展開する窪園さんだが、最も興味深かったのが、友人とのつながりで学生アンバサダーを務めていたOIC CONNÉCTのセッション企画運営だという。最初の企画段階から任された窪園さんは、「2050年までにカーボンニュートラルは実現できるのか? 〜2050年に向けた地域づくりの最先端の現場から〜」と題し、自身が影響を受けた起業家の木原さん、同じく環境エネルギーに関わる会社を経営する榎原友樹さんを登壇者として招聘。セッション当日はモデレーターとして運営に尽力した。企画の意図を窪園さんはこう語る。「カーボンニュートラル実現に向けてさまざまなまちづくりの事業をされているお2人が私には楽しそうに見えて、そういった方々に話してもらうことで、カーボンニュートラルを実現することは“我慢すること”ではなく、“街や生活が豊かに変わること”だと伝えたかったんです。社会システムごと変わって、こっちのほうがいいね、おもしろいね、と楽しみながら無意識に行動変容できるような社会にできたらいい。そういうことを、参加者みんなで話し合えたので、意義のあるセッションでした。私自身も“我慢で社会は変わらないから、根っこのシステムから変える必要がある” という言葉がすごく腑に落ち、企画をして良かったと改めて思いました」。

現場主義の行政官を目指して

窪園さんは、一つ一つの取り組みの積み重ねが、自身を大きく成長させたのだと振り返る。「いろいろな価値観を知ることで視野が広がり、社会の見え方が変わっていくことが面白いです。ワークショップや研修の取材が土台となり、さまざまな人に会って一緒に活動し、多くのことを教えてもらった経験があったからこそ、OIC CONNÉCTでのセッションをはじめ、ハンガリーでのユースセッション企画など、次につながっていると感じています」。
成長目覚ましい彼女が将来目指すのは、行政官だという。「今までの経験を生かし、地域の人が何を大事にしたいのかをくみ取れる現場主義の行政官を目指しています。いろいろな人たちの“違い”を知るため、これからも学び続けていきたい」と話す窪園さん。彼女が社会を変える“楽しい仕組み”をつくるその日を待ち望みたい。

PROFILE

窪園真那さん

鹿児島県立鶴丸高校出身。趣味は小学校1年生からはじめたバレーボールで、中高とキャプテンを務めた。お笑い番組やラジオを鑑賞することも好き。どちらも頭を空っぽにできるため、良い気分転換になるそう。
好きな言葉はスティーヴン・ホーキング博士の「Life would be tragic if it weren't funny. (人生は面白くなければ悲劇だ)」。ユーモアある面白さを、何事においても大事にしたいと考えている。

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