能登半島地震の足湯ボランティアから学ぶ地域一人ひとりとのつながり
「大学と地域の架け橋に」を理念に発足された学生防災サークル立命館FAST。現在代表を務めるのは、女性初の国際協力機構(JICA)国際緊急援助隊での活動を将来の夢とする山口穂菜美さんだ。京都の消防団に入団してFASTの存在を知り入部したものの、当時の活動実態はなし。そして、一人で活動するなかで起こった能登半島地震。ボランティアとして被災地に向かい、防災は「地域のつながり」が重要であることに気づいた。一から挑戦してきたからこそ、人が集まると生まれる団結力の強さを語る彼女の軌跡に迫った。
阪神・淡路大震災が起こった兵庫県で生まれ、
異国の地フィジーへ留学
地震の怖さを知ったのは、小学生のとき。当時は防災に興味はなかったが、兵庫県明石市で育ち、授業の一環で阪神・淡路大震災について教わる機会が多かった。また進学した高校は、震災の野島断層を保存展示する施設が近くにあったこともあり、自然と防災への意識が高まっていったと振り返る。
防災意識の高まりとともに、気候変動などグローバルな自然災害の影響を強く受けてしまう開発途上国などへの関心も高まった。国際緊急援助隊で活動することが彼女の夢となり、高校3年生の時には、フィジーへ留学した。フィジーでは言葉や文化の違い、日本では当たり前に使用できる電気や水道など生活基盤となるライフラインの弱さに戸惑うことも度々あった。他方、「人とのつながり」を大事にするフィジーに学ぶことも多かった。日本と同様に津波のリスクが高いフィジーでは、地域のコミュニティが地域防災に大きな役割を担っていた。フィジーでの経験は、人とのつながりが希薄になりつつある日本において、地域防災の強化が必要であることに気づいた転機となった。
学生防災サークル立命館FAST入部時、活動実態なし
立命館大学に入学した山口さんは、「地域防災」に深く関わろうと、下宿先の京都市で消防団に入団した。また消防団を通じて出会った他大学の友人から「京都学生FAST」の存在を知った。京都学生FAST(Fire And Safety Team)は、大学生消防防災サークルで構成された京都府公認の学生ネットワーク。立命館大学を含む13大学合同の活動に加え、各大学でも取り組みを行っており、山口さんは立命館FASTへの入部を即断した。
ところが、立命館FASTの門を叩くも当時の活動実態はなし。廃部の危機に瀕していた。それでも、立命館FASTの歴史を絶やすまいと山口さんは一人で防災活動を始めた。「火の用心」と呼びかけながら、衣笠学区を巡回した。一人、定例活動を黙々とこなす日々。「地域防災」への強い思いを持って入部したはずが、活動への熱が次第に冷めていってしまった。
能登半島地震の足湯ボランティア
能登半島地震が起きたのは、まさにそんな時だった。テレビで地震の発生を知り、防災サークルの部員として、また消防団員として、培ってきたことを被災地のために役立てたい、と立ち上がった。阪神・淡路大震災を機に発足されたCODE海外災害援助市民センターが有志を募っていることを知り、災害ボランティアに応募。他大学の学生らとともに「足湯隊」を結成し、2月16日に被災地へ向かった。
被災地では電気やガスが復旧していなかったため、綺麗な水を車で運び、ガスボンベで水を温めて足湯を用意した。足湯に浸かる地元の方々の手をマッサージ、そして一人ひとりに寄り添いながら、対話を続けた。
「ある方は、余震も続いていて安心して眠れていないと、避難所生活での不安について、語ってくださいました。わたしたちは、そういったお一人お一人の言葉を『つぶやきカード』というカードに記載し、どうすれば自分たちがもっと役にたてるのか仲間と一緒に考えていきました」。
山口さんが参加した「足湯隊」の第1次隊は、現在(2024年5月)では第13隊となり、その活動が続いている。
災害ボランティアから再燃する地域防災への思い
石川県から戻った山口さんは、一人でも多く立命館FASTの部員を増やし、活動の幅を広げたいという思いを強くした。『りっつ火の用心』という月刊新聞を作成し、積極的に新入部員の勧誘に取り組んだ結果、部員は20人にまで増加した。
「災害はいつ起こるかわかりません。朝に親子喧嘩をして、挨拶をしないまま家を飛び出し、そのまま永遠の別れになることもあり得ます。だから、普段から人を傷つける言葉を使わない、周囲と優しい言葉でコミュニケーションを築くことも ‘‘防災”だと思うんです。一人ひとりのつながりは、コミュニティをつくり、それは大きな力に変わります。立命館FASTで一人だった時も頑張ってこれたのは、地域の方々の励ましや、消防団員のみなさんの協力があったからです。周囲の支えに感謝しています」。
「地域にとって、立命館FASTの学生を見たら、防災を心掛けてもらえるような存在になりたい」と語る山口さん。目標に向けて更なる躍進を続ける彼女にエールを送りたい。
PROFILE
山口穂菜美さん
AIE国際高等学校卒業(兵庫県)。趣味は食べること。アルバイトしているオムライス専門店の全メニュー制覇が目標。 2024年6月に、消防団員として京都市消防団総合査閲へ出場。京都市内各消防団から選抜された分団が一堂に会し、点検礼式や消防訓練を行った。