介護施設の食事量計測に役立つAIを活用したアプリケーション「めしパシャ」。食事前と食事後の写真から、AIで食事量を計測できるビジネスプランを提案するのは、太田晶景さんと平田康介さんだ。日刊工業新聞主催「第20回キャンパスベンチャーグランプリ」の全国大会で審査委員会特別賞を受賞した。「業務効率化のアプリだけで終わらせてはいけない」という思いを胸に、2024年6月に「ドリギー」という社名で起業する二人に話を聞いた。

父親の影響で介護業界に興味を持つ

立命館大学理工学部電子情報工学科の孟林准教授が始めたプロジェクト・MOUantAI(モウアントアイ)に参加し、AIを活用したサービスを模索していた太田さん。平田さんが加入するまで、太田さんは異なる内容のビジネスプランでコンテストに参加していたという。
「当時提案していたビジネスプランは、技術をどう生かすかという部分ばかりにとらわれており、自分たちだからこそ解決できる課題が見いだせていませんでした」と太田さんは振り返る。

その後、太田さんが声をかけて、平田さんがMOUantAIに加入。介護に着目したビジネスプランを考案したきっかけは、介護業界で従事する父親の影響が大きいと平田さんはいう。
「介護施設の入居者の食事量を、人間の目視だけで毎日計測する大変さを教えてくれました。目視する人が変わると基準も変わります。客観的に判断できるシステムを作ることは、介護施設で働く人の負担を減らし、入居者の介護予防にもつながっていきます。これからの日本にとって必要なサービスなのではないかと思いました」と考案の経緯を語った。

介護施設見学で思いを深めた「食の重要性」

二人は実際に介護施設を視察。介護士の会話力の高さに二人は驚いた。筋力が低下している入居者は、口頭での発話が困難な場合もある。入居者のアイコンタクトから思いをくみ取る介護士は、コミュニケーションのプロフェッショナルに感じた。一方で、雑務に追われている現状も目の当たりにする。介護士が専門的な業務に注力できるように、自分たちも助力になりたいと、アプリ開発に向けて意を強くした。

同時に、介護施設の食事管理に、変革の必要性を改めて感じた。入居者の症状が悪化して病院に搬送された場合、医師が患者の情報として頼りにするのは食事量だ。医学の進歩により、あらゆる要素が数値化できる時代にも関わらず、食事の計測だけは情報に正確性がない。介護士の業務軽減だけを目的としてはいけないと感じたという。

「栄養補給は点滴でも可能ですが、当事者にとっては違和感があると耳にします。口から食べる楽しみは、自分らしく生きる喜びにも直結します。健康的に過ごせる日々を一日でも長く実感してほしいです。その介護予防として、めしパシャの導入が活用されればと願います」と太田さんは語った。数十年後にいずれは自身も直面する介護の問題。自分にはまだ先のことだと思っていたが、視察を通じて、自分自身の課題へと変わっていった。

自分たちの言葉で語るビジネスコンテスト

アイデアを形にするため、「第20回学生ベンチャーコンテスト2023 Powered by RIMIX -THE FINAL PITCH-」にて初めて「めしパシャ」のビジネスプランを提案した太田さんと平田さん。1次審査を経て迎えた2次審査で、二人に壁が立ちはだかる。2次審査後の審査員からは「何を言いたいのかが一切わからなかった」と酷評だった。専門的な知識が必要な介護業界。すべての人に理解してもらうためには、情報量が増えてしまい、説明が難しくなるためだった。

それでも最終審査会への進出が決まった二人。「このままではいけない」と危機感を持つ。 今までのプレゼンテーションの方法をすべて変えることにした。『立命館起業・事業化推進室RIMIX』メンターのサポートのもと、原稿の内容、話す順番を変更。説明よりも、自分たちの言葉で語ることに注力した。努力は実を結び、2次審査の評価からは様変わりした。最終審査では最優秀賞・きたしん未来賞・中央会計賞・NVCC賞の4つの賞を受賞した。

二人が挑戦したビジネスプランは次第に洗練されていく。「キャンパスベンチャーグランプリ大阪2023」では最優秀賞を受賞し、全国大会への切符を掴み取った。東京で開催された全国大会でも、「何を伝えたいか」にフォーカスしてプレゼンテーションし、審査委員会特別賞に輝いた。

「学生起業家の登竜門」として知られる学生ビジネスコンテストでの受賞。それでも二人は、うれしさよりも「悔しさ」が残ったという。これまでコンテストで磨き上げてきたビジネスプラン「めしパシャ」を社会実装するために、起業という新たな船出を決意した。

世界の人々をつなぎ、
誰も成し得ていない環境でも照らす星のように

今後、二人は会社「ドリギー」を起業する予定だ。星座を意味する「星の宿り」と、花言葉に“困難に打ち勝つ”という意味を持つ「宿り木」、二つの言葉を社名に込めた。アプリケーション「めしパシャ」の実用化に向けて、介護施設への仮導入も決定している。「事業を軌道に乗せることも大事だが、問題を抱える人に寄り添い、世界をより良くできるように走り続けたい」と、二人は意気込みを語った。AIで運用するための実績データを集めて、アプリ開発に取り組む二人の活躍が、介護の世界で輝く星となることを期待したい。

PROFILE

太田晶景さん

鹿児島県樟南高等学校出身。中学生から学生芸人として漫才をする。現在も相方とともにSNSで配信。担当はツッコミ。

平田康介さん

大阪府浪速高等学校出身。動物が好き。アニマルカフェでアルバイト中。実家では猫を飼っている。

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