ロボットのオリジナル性を追究し、つかんだ悲願のロボカップ世界大会優勝
人間の操作に頼らずに動く“自律型ロボット”による世界的な競技会「RoboCup(ロボカップ)」。その中でも、直径18cm・高さ15cmの小さなロボット複数でチームを組みフィールドでサッカーをして得点を競うSmall Size League(SSL)に魅せられ、2024年7月に長年の夢だった世界大会での優勝を果たしたのが、廣橋拓武さん(理工学研究科2回生)だ。情報理工学部のプロジェクト団体「Ri-one」に所属し、たった1人でRi-one内にSSLのチームを立ち上げ、学生最後の年に優秀なメンバーたちと共に念願のチャンピオンとなった廣橋さんに、強さの秘訣を聞いた。
ロボットで行うサッカーの面白さ
「SSLの面白さは、何と言っても得点した瞬間の達成感にあります」と話す廣橋さんが、ロボカップに挑戦しようと決めたのは、立命館守山中学校時代のこと。ロボカップの大会に行ってサッカーの試合を観て興味を持ったのと、所属していたサイテック部(科学技術系の部活動)に用意されていたサッカーロボットのキットを使ってみたことがきっかけだった。「多くの機構やセンサーをカスタマイズして作った独自のロボットでサッカーができることに非常に魅力を感じました」と振り返る廣橋さんは、中学3年生から設計・制作・プログラミングなどすべての工程にトライし、ロボカップジュニア(ロボカップのジュニア部門)のサッカーリーグに高校3年生まで出場を続けた。そして立命館守山高等学校サイテック部の仲間と共に出場した高校最後のロボカップジュニア世界大会では、なんと総合準優勝を果たす。
立命館大学入学後も廣橋さんの熱は冷めなかった。「ロボカップジュニアは出場資格が19歳までなので、大学進学するとシニアに移行しなければなりません。シニアになるとサッカーのフィールドが広くなりロボットの台数も増えて難易度がぐんと上がりますが、ますますサッカーのロボットを極めたいと思いました」。そして廣橋さんはロボカップで日本一と世界一を目指す団体Ri-oneに入部した。
ゼロからのチーム立ち上げ
ところが、当時のRi-oneには小型ロボットのサッカーリーグであるSSLのチームが存在しなかったため、大学2回生の時、廣橋さんはたった1人でSSLチームの立ち上げを決意する。その当時はちょうどコロナ禍に入った時期で、チームのメンバー集めに苦労したという。「あの時はZoomで入部説明会を行っていたので、画面越しでSSLの面白さをどうやって伝えるか悩み、工夫しました。ロボットが実際にサッカーをプレーしているPVを作成したのですが、迫力を出すための演出にはこだわりましたね。ロボットで行うサッカーは、実際に人間がするサッカーよりもボールスピードが速いので、それをいかにアピールするかを考えました」。その甲斐あってか、説明会をきっかけに新たなメンバーも集まり、7人でチームをスタートさせた。
新しいチームのスタート時を「とにかく忙しかった」と振り返る廣橋さん。廣橋さん以外の新しいメンバーたちはSSL初心者のため、廣橋さんが一人一人にロボット作りに必要なハード・ソフト・回路それぞれの部門全部を教えて回り、修理やチェックまですべてのプロジェクトに目を通す必要があったためだ。また、6台もの精巧なロボットを、たった7人で大会までに仕上げるには、チーム内でうまく役割分担をして、大会までに詳細にスケジュールを組んで作っていく要領が必要だった。「自身のマネジメント力がすごく鍛えられました。チーム結成2年目からはさらにメンバーが増えたので、思い切って前年育てた後輩たちに各部門のリーダーを任せることにしました」と廣橋さんは振り返る。
強さの手がかり
ロボカップには1年目から毎年出場していたが、各メンバーの技術力向上に伴って、成績も上がっていった。2021年、初出場の「RoboCup Asia Pacific あいち SSL」大会では1勝しかできず5位に終わったが、翌年は世界大会で5位、23年は日本大会と世界大会ともに3位となるなど、着実に実力をつけていく。24年7月にはついに、念願の世界大会で優勝を果たした。
廣橋さんは自身のチームの強さの秘訣をこう語る。「ほかのチームに勝つためには、独自の新しい機構やセンサーを搭載する必要があります。開発に苦労しましたが、私のチームではロボットにセンサーカメラを搭載し、ボールを認識させました。ロボット自体にカメラが付いているのは非常に珍しいです」。カメラを搭載できたのは、ロボットの小型化にも注力してきたおかげだという。「ハードウェアや回路の部品は既製品をほとんど使わず、自分たちで設計し手作りしています。スペースまで考えて工夫したので、規定の大きさのロボットにいろいろな機構を搭載できるんです」と、オリジナル性を高めたことが勝因の一つだと話す。
ライバルの存在も大きかった。廣橋さんがロボカップジュニアに出場していた時から対戦していた他県の高等専門学校のチームで、同時期にシニアに進出したのだという。「ロボットがかっこいい上に、機構の一つ一つの技術が優れているチームでした。お互いにライバルとして意識し、刺激を受けて技術を高め合うことができたと思っています」と振り返る。
ロボットを追究したい
学生生活最後の年に世界大会優勝の念願を叶えた廣橋さん。卒業後は電気機器の会社で技術開発職に就く予定だが、社会人になってもロボカップには出場し続けたいと考えている。「サッカーのロボットを極めたい気持ちは変わっていません。学生時代はロボカップSSLの中でも“DivisionB”という主に新規参入チームが参加するところで戦っていたのですが、今度はより高い技術レベルが要求される“DivisionA”に挑戦してみたいです」。廣橋さんの飽くなき挑戦はこれからも続く。
PROFILE
廣橋拓武さん
立命館守山高等学校(滋賀県)卒業。趣味も息抜きも“ものづくり”。最近はアップルウォッチの充電スタンドや、3Dプリンターでキャラクターのモデルを作った。アプリの開発も行っていて、ロボットの試合状況やコンディション、戦略などを可視化するアプリを作り、ロボカップの大会でも実際に使用した。