スマートウェアの開発を手がける

小学校から高校生までバスケットボールに打ち込み、製品の性能がパフォーマンスに直結することを感じていた。「自分もスポーツ選手に喜んでもらえる製品を開発したい」との夢を実現させるため、立命館大学スポーツ健康科学部に入学し、生体工学が専門の塩澤成弘准教授の研究室へ。さらに大学院に進学し、「スマートウェア」の開発に本格的に携わることになった。

スマートウェアとは、R-GIRO先端医療研究拠点における取り組みを基に文部科学省「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)」に採択された「運動の生活カルチャー化により活力ある未来をつくるアクティブ・フォー・オール拠点」が共同開発を進めている、導電性のペーストによる電極を埋め込んだアンダーウェアのことで、着用するだけで日常的な生体の状態(心電図、呼吸、体温、発汗、関節角度)を測定することができ、また小型端末を接続すると測定値をスマートフォン等に送ることができる。 スマートウェアから得た生体の情報とテクノロジーやアプリケーションシステムなどを掛け合わせて、生活の管理や疾病の早期発見、スポーツのパフォーマンス向上などの仕組みづくりを進め、健康の維持や増進を促し、寝たきりゼロの社会を実現することがこのプロジェクトの最終目標だ。

企業と共同で開発したペーストは薄さ0.3ミリ。レーザーカッターで電極に成形しプレス機でウェアに圧着していく。電極の形状、貼り付ける位置などの組み合わせを考え、現在心電図の計測に使われている皮膚に直接貼るディスポーザブル電極と同等の精度にすることを求めた。安静時から軽いジョギング、さらに時速16kmの速度のランニングで、計測する心電図に乱れがないか、余計なノイズを拾っていないか、確かめていく。ウェアにより電極が皮膚に密着していないこともあり、ランニングの速度を上げると思うように電気信号を全く受け取れないこともあった。鶴見さんらは約10ヶ月に及ぶ試行錯誤の末、見事に正確な心電計測を成功させた。「信号が、成功した証である綺麗な波形になったときは嬉しかったです。『これでやっとスマートウェアと呼べるものができたな』とみんなで喜びを噛みしめました」現段階のスマートウェアは心電図のみだが、将来的には呼吸などあらゆる生体信号を同時に計測できるようにする予定だ。

社会にないモノをつくりだす喜び

「スマートウェアは、先行研究もなく、参考になるものが少ないです。自分たちで新しいアイデアを出すだけでは机上の空論で、実際には測定できないことがあります。“アイデアをすぐ実行して確かめること”“考えることと手を動かすことを並行してやっていくこと”が、いいものをつくることに大切なんだと学びました」また、鶴見さんは、着るだけで心電図が測れることに驚く被験者(学部生)の表情に、改めて人が“驚くような製品”に携われていることを実感した。「学部生や院生のうちから、将来社会に普及するであろう製品に関われることは滅多にないこと。世の中にないものを0からつくっていく“ものづくり”の楽しさも感じました」

卒業後は繊維事業を中心に展開するメーカーに就職し、開発部門に就く予定の鶴見さん。彼が手がけた”世の中に役立つ製品”を、私たちが手にする日もそう遠くはないだろう。

文部科学省「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)」に採択

文部科学省が10年後の社会を見据えて設定した3つのテーマ「少子高齢化先進国として の持続性確保」「豊かな生活環境の構築(繁栄し尊敬される国へ)」「活気ある持続可能な社会の構築」に対するチャレンジング・ハイリスクな研究開発に最長9年間、拠点あたり年間1億~10億程度の支援を行うプロジェクト「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)拠点」(以下COI)事業に、立命館大学が研究リーダーを務める「運動を生活カルチャー化する健康イノベーション」拠点が昇格しました。関西の私立大学では初の採択となります。

「運動の生活カルチャー化により活力ある未来をつくるアクティブ・フォー・オール」拠点は、立命館大学のほか、東洋紡(株)やオムロンヘルスケア(株)など8つの企業・研究機関と順天堂大学を中心としたサテライト拠点による連合チームで形成しています。同拠点では、少子高齢化の日本における「持続可能な社 会実現モデル」の構築を目指し、世界に最先端モデルを発信します。

PROFILE

鶴見拓人さん

県立国府高等学校(愛知県)卒業。
2013年4月~塩澤成弘准教授の研究室でスマートウェアの開発に尽力する。

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