今年6月、選挙権年齢が18歳以上に引き下げられた改正公職選挙法が施行され、240万人の若者が新たに有権者となった。全国各地の高校では模擬投票など政治参加を促す取り組みが行われたほか、一部の大学では構内に期日前投票所が設置された。立命館大学びわこ・くさつキャンパス(以下:BKC)もそのうちのひとつだ。この実現に大きく関わった学生たちがいる。それが自主ゼミ団体「衣笠じゅく」だ。

学生同士で社会問題を考える

2014年秋、当時2回生だった加野さんは、日頃から「大学で社会科学を学んでいるのに、学生生活のなかでは社会と接点がみられない」など、大学生活に物足りなさを感じていた。そこで懇意にしていた教員に相談、協力を得て、学問を深めることや社会について学ぶ、大学の原型であるサロンのような場を目指し「衣笠じゅく」を立ち上げた。発足時のメンバーは約10名。立命館大学だけでなく、京都造形大学からも学生が集まった。週一回の勉強会では、「なぜ、多くの学生のモチベーションが入学後に低下するのか」など身近な問題や社会問題をテーマに学内外の教員を招いて講義を受けたり、自分たちの興味のある分野についてインターネットや文献で研究したり議論を交わしたりしていた。ただ活動を続けていくうちに、メンバーたちに一つの疑問が浮かんできた。「僕たちが社会に対しての理解を深め、社会問題について議論したところで、問題の要因には何の影響も与えられないのではないか・・・」

投票所設置、提案から実現へ

2015年3月、12大学で期日前投票所が設置されるという新聞記事が加野さんの目に飛び込んできた。もともと若者の投票率低下を問題視していたメンバーたちは、政治に参加する環境や主権者教育の環境が整うことを目指し、大学内の投票所設置にむけての活動を始めた。費用や設備について他大学や自治体にヒアリングや、投票見込みを示すためのアンケートを南草津市に住む約360人の学生に行った。アンケートの結果、「大学内に期日前投票所があれば投票に行く」と約6割の学生が答え、手応えを感じたメンバーたち。予算面や場所の確保など問題があったものの草津市選挙管理委員会(以下:選管)や大学との交渉を重ね、同年7月草津市の選管に要望書を提出した。提出後も、期日前投票の潮流についての資料作成、選挙啓発グッズのデザイン、啓発運動など、精力的に活動した。また加野さん自身も選挙関連のフォーラムへの参加や、他大学で講演活動も行ったという。そして、ついに草津市議会で投票所設置の予算案が議決され、2016年の参議院議員選挙でBKCに投票所の設置が実現する運びとなった。 「学生が行政に対して要望だすことに心理的なハードルがありました。実際に手順を踏めば、『実現できるんだ』と実体験をもって学びました。社会に対して無力ではなく、行動を起こすことは意味のあることなんだとポジティブに感じられるようになりました」と加野さんは振り返る。

7月7日。BKCの期日前投票所に加野さんの姿があった。「今日のこの日を迎えられたことがとても嬉しい。投票や政治をキャンパス内で身近に感じられるような環境づくりの第一歩となりました。ここがゴールではなく、ここからがスタートだと考えています」喜びをかみしめるとともに、今後の意欲を示した。これからもシティズンシップ教育や若者支援の活動に関わっていくようだ。

(左から)理工学部・野澤啓准教授、加野さん、楠奥繁則氏

PROFILE

加野佑弥さん

県立生駒高等学校(奈良県)卒業。 2013年~グル麺’s倶楽部に所属。他大学の学生と共同で「関関同立本気のラーメン」づくりに携わる。景井 充准教授のゼミでは、京都・京北産の日本酒づくりに参加。2014年10月、受講していた授業(児童・発達心理学)の担当教員で立命館グローバル・イノベーション研究機構専門研究員の楠奥繁則氏に相談をもちかけ、自主ゼミ団体「衣笠じゅく」を立ち上げる。

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